2009年3月27日金曜日

愛媛の快進撃を分析すると

4節を終わって3勝1分、勝ち点10で3位につける愛媛FC。開幕戦は見に行ったのだが、実は好調の原因はわからない。このコラムにも書いているのだが、昨シーズン終盤のほうがいいサッカーはしていた。展開力も去年のほうが上だし、今季はミスも多い。それでも上位にいるというのはいったいなぜなのか。

愛媛FC、躍進の秘密 (1/2)(スポーツナビ)

例えば、昨シーズン終了から今季開幕までをざっと振り返ってみても、主力はほぼ残留したとはいえ、期限付き移籍を含めて大量14名がチームを去った。それに対し、獲得できた選手はわずか8名。集客面も含めた目玉として、クラブが獲得を目指していた愛媛県新居浜市出身のMF福西崇史(元東京V)は、本人の引退という決断によって交渉は幕引きとなった。

2度にわたりGM(ゼネラル・マネジャー)の佐伯真道がブラジルに渡って獲得を目指した外国人FWも、決定寸前で破談している。何より、一連の不況により「スポンサー収入は昨シーズンの1割から2割減になりそう」(佐伯GM)という地方クラブの現実において、年間約4億9000万円しかない予算をかんがみても、「ない袖は振れない」というのが本音。一見すると、やはりプラスの要素を探す方が難しいのである。


選手の質ではおそらく下から数えたほうがいいだろう。J2ということを考えてもリーグ戦を戦うだけの戦力ギリギリというところ。選手層もそれほど厚くないし、主力の故障があればバックアッパーにも苦慮する陣容だ。お金があるからいい選手が集まるというわけではないが、資金がないというのはやはり大きな弱点になる。


確かに、今季になってトレーニング内容が一変したのかと言われれば、そのようなことは全くない。通常トレーニングの大半は、4分の1コートでの5対5やハーフコートでの8対8など、プレッシャーをかけ合う中での攻守にわたった正確なボールコントロールを求める作業が中心。大山俊輔や横谷繁の両サイドハーフ、高杉亮太、三上卓哉の両サイドバックをストロングポイントとしつつ、「仕掛けながらつなぐ」というチームコンセプトは実はこの5年間、タレントの違いはあれ一貫したものなのである。

その一方で、明らかに昨年と変わった、というよりは増えたトレーニング風景が1つある。それは素走りの量。シーズン前は8キロインターバル走や10分間走といったさまざまな素走りメニューがキャンプ前半まで続き、現在も週明け最初のメニューは4キロ程度のインターバル走が中心。「今年は走ることをベースにしたい」と指揮官が始動日に明言した通り、この地獄のトレーニングは夏まで続くという。

そして、この素走りの効果は早くもさまざまなところに表れている。今季ここまで3得点で、内村圭宏と並びJ2得点ランキングトップにつけているFWの田中俊也はこう語る。「昨年よりも長い距離を走れているし、奪ってから速い攻撃やゴール前に入る人数も増えている」。また、DFの金守智哉も「集中力が切れると頭の回転が遅くなるが、走れていることで判断にも余裕ができている」と試合運びにおける変化を話す。

例をあげれば、劣勢の中で自陣ゴール前からの1本のロングパスで内村が独走して奪った第2節・富山戦の2点目。相手が前掛かりに来るところを利用して、カウンターからFWジョジマールが後半ロスタイムにゲットした第3節・岐阜戦の3点目などはまさに、「切り替えの速さ」という判断が存分に発揮されたものだ。チームコンセプトをより生かすために始めたスタミナ強化はここまで、昨季42試合で39得点とJ2・15チーム中最下位に終わった得点力を着実に押し上げる効果を生み出している。


サッカーというのは走力とボールコントロールの力があれば、なんとかなるものだ。ロングカウンター1本でもきっちりトラップできれば相手DFを置き去りにしてゴールに向かうことができる。急に足が速くなることはないにしても、90分通して走れれば相手を振りきることもできるようになる。

走力とボールコントロールで相手を凌駕すれば、判断力にも余裕が出てくる。そうなれば展開も楽になり、そして攻撃に幅が出てくる。愛媛の望月監督はそういう好転を目指しているのかもしれない。タレントの質はそれほど高くなくてもインテリジェンスが高ければ十分に戦える。ヨーロッパのトップリーグでは選手の質も力も違う選手がインテリジェンスを身につけているが、日本の場合はインテリジェンスにそれほどの差はない。その部分を高めていけば、相手を思い通りにコントロールすることも可能だ。

となれば、愛媛は走力で両サイドからえぐり、そしてゴールを奪うというスタイルを磨くことで相手のDFを外に開かせることができる。

今はまだ押し込まれたり、ポゼッションで圧倒されたりすることもあるが、そういう部分だけではサッカーの勝ち負けは決まらないということがわかれば、慌てることもなくなる。落ち着けば勝機も増えてくるのだ。

もう1つ、普段の練習を見ていて大きな変化を感じるのは、チーム内における競争意識、かつ戦術共有意識の向上である。最大で31名を抱えていた昨シーズンは、試合に出場できる選手とできない選手のモチベーションの差が大きく、練習中にも緊張感を欠く場面が目立った。だが、J1・J2含めて最小の登録23名でスタートした今シーズンは、「今は目が行き届いているので、みんなチャンスだと思っている」と望月監督も認めるように、ともすると削り合いに近いような激しいバトルがトレーニング中から展開されている。さらに、紅白戦の合間や練習後にも、選手間で修正点を確認する姿が多く見られるようになった。

となると不思議なもので、選手たちの発言も自然と前向きになってきている。昨シーズンは途中でサイドハーフからボランチにコンバートされ、その難しさを口にしていた赤井秀一が、「ボランチは展開とかを考えながらやるので難しいが、難しいだけにやりがいがある。ボランチが楽しくなったら成長できるし、課題をクリアしたい」と、今季は強い意欲を語る。

攻守にわたる天性のスピードを持ちながら、メンタルコントロールに問題を抱えていた内村も、「昨年はコーチングがなかった部分もあったが、今年は奪ったときに相手が整っていない場合は、スピードに乗って仕掛けていこうとみんな言ってくれている」と、今季3ゴール、1アシストの好調が周囲とのコミュニケーションの改善によるものであることを明かす。


さらにコミュニケーション能力が高くなれば、サッカーの質は上がっていく。やりたいことができるサッカーというのは強い。

相手がある以上、自分たちのサッカーは簡単にはやらせてもらえないのだが、それでもまったくなにもできないわけではない。そのなかで特徴を出せれば自信につながる。自信がつけば、さらにプレーの精度も高まっていく。好循環がサッカーのレベルをあげていく。

今の愛媛はこの流れで上位を窺い、3位につけている。サッカーとしてはまだ攻撃の幅がナローでオーバーロードを作っても活かせないもどかしさはある。

だが、成長の余地があるということは上位とも互角に戦える力をつける可能性があるということだ。その意味は楽しみでもある。

お金がないクラブでも工夫次第で勝てるということが証明できれば。それは日本のサッカーに影響することもあるのではないか。

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