2011年1月10日月曜日

日本の課題はサイドアタックの徹底か

AFC Asian Cup 2011 Qatar Group B Japan 1-1 Jordan @ Qatar Sports Club Stadium
Japan:Yoshida 90+2
Jordan:Hassan Abdel Fattah 45

ヨルダン戦後 ザッケローニ監督会見
AFCアジアカップ2011
(sportnavi)

結果には満足していない。日本が90分主導権を握り、ヨルダンが引いて守る展開だった。特に前半には満足していない。プレースピードが上がらず、意味のないポゼッション。それでも日本は17本のシュートを打ち、枠に7本(飛んだ)。ヨルダンは2本しか枠に行っていない。オープニングゲームということもあり、相手もなかなかスペースを与えてくれないことも分かっていた。
 もう少し、われわれの方でプレースピードを上げないといけない。なかなかチャンスを決め切れず、オウンゴール(ハサンのゴール)を決められてから、さらに困難な状況になってしまった。ただ、わたしが考えていたようにきちんとボールを動かしていたときには、狭いスペースからでも相手ゴールに迫ることができた。

総括すると前半は不満、後半はまあまあという印象。これだけシュート数に差がある試合は、多い方が勝つものだ。ただ当然、ヨルダン以外のチームもこうした戦いをしてくるだろうから、相手次第というよりもわれわれ次第。日本代表が(主導権を握った上で)勝たないといけない。


試合の分析ができている点はさすがにイタリア人監督ということか。リアリティあるサッカーをさせるならこういう方法になる。中央にこだわりすぎるということもなく、サイドアタックからチャンスを何度も演出した。決まらなかったのはヨルダンのGKシャフィの好守もあり、シュートが甘かったということもありで難しい試合になった。ザッケローニはスペースのないゲームになれているが日本代表の選手たちの多くはなれておらず、伝わらなかったことに苛立ちを感じたのではないか。

日本代表はまだまだ成長途上であり、まだアジアで圧勝できるレベルではないと言える。決定機が数多くありながら決めきれなかったことは監督の責任ではない。もっともシュートがうまい香川が決めきれないのだからヨルダンの守りがしっかりコーディネートされていたともいえるが、決定機までのコーディネート以上のことは監督にはどうしようもない。

問題があったとすればカウンターへの対応か。両サイドのフルバックのバランスはよかったものの、センターへの対応はよくなかった。一発のロングフィードでチャンスを作られた場合にはさらなる注意が必要だろう。

――岡崎投入後、中盤の並びが変わって良くなったように見えた。交代意図と評価は?(大住良之/フリーランス)

岡崎は非常にイニシアチブをとって攻撃の活性化に寄与してくれた。(彼だけでなく)攻撃陣が球離れが良くなり、ワンツーなど狙いを持った攻撃をしてくれたので、相手ゴールを脅かすことができた。

■サッカーはいくつかのエピソードによって左右される

――ヨルダンのパフォーマンスの印象は?(外国人記者)

ヨルダンはチーム全体で、良い守備をしながら戦った。そして、オウンゴールによって彼らの自信が深まり、やりづらい試合になった。

――こうした形でのスタートをどう思うか? また90分のうち89分が0-1だったときの心境は?(外国人記者)

結果の予想はしていなかった。(なぜなら)勝つために準備をしてきたからだ。サッカーはいくつかのエピソードによって左右される。今回、ヨルダンが先制したことで試合の流れは変わってしまったという印象だ。ひとつ言えるのは、日本は今日も勝つために試合をしたし、今後も勝つために試合をするということだ。先制されたときは当然ながら残念に思ったが、後半必ず選手たちがやってくれると思い、気持ちを切り替えた。


勝つための手は全部打った。欲を言えばサイドで輝きを見せられなかった本田圭佑の不調を早く見切ったほうがよかったが、贅沢だろうか。前田が機能すれば得点能力はさらにあがる。前田は質のいいクロスを受けるポジションにいなかったことと、右サイドに偏ったサイドアタックのボールが香川に集まったことで決めきれなかったこともあり不運だったが、スペースのないサッカーをきちんと覚える必要がある。マーカーがつくのは当たり前。いかにフリーで撃つかが前田の課題になる。

■ヨルダン代表 アドナン・ハマド監督

「引き分けという結果は受け入れ難いもの」

いい試合だった。選手たちの組織立ったパフォーマンスも素晴らしかった。日本は強いチームだが、われわれはリアリスティックに試合に臨むことで、うまく戦うことができた。十分に勝利の可能性があっただけに、引き分けという結果は受け入れ難いものだった。もう少しで勝ち点3が取れたのだが、(終了まで)あと数分というところで同点に追い付かれてしまった。とはいえ、われわれは日本のパフォーマンスについて、何ら否定することはできない。今日の試合は非常にタフなものであったが、次の試合に向けて弾みをつけたいと思う。


ヨルダン側は引き分けは受け入れがたい結果だろう。スペースを潰してカウンターという戦術はまんまとはまり、もう少しで勝ち点3というところまでいったのだ。日本の猛攻も計算済み。GKシャフィのビッグセーブ連発に頼るかたちとなったが、運も味方のうち。最後にタイミングを外されて同点ゴールを食らったが徹底したリアリズムのサッカーは好感がもてるものだった。日本代表は固められても破る力をつけなければ世界のトップになることはできないから、ステップアップしてほしいところだが。

ザッケローニを襲ったアジアの混沌 (1/2)
日々是亜洲杯2011(1月9日)
(sportnavi)

大会3日目。ついに日本の初戦当日がやってきた。この日の相手はヨルダン。最新のFIFA(国際サッカー連盟)ランキングでは104位である(日本は29位)。普通に考えれば、決して難しい相手ではないように思われる。とはいえアジアの公式試合においては、このFIFAランキングほど当てにならないものはない。加えて、対戦回数が少ない相手であれば、なおさらであろう。

日本がヨルダンとアジアカップで対戦するのは、今回がようやく2回目。前回対戦した04年の中国大会の準々決勝では、PK戦までもつれた末に、時の守護神・川口能活のスーパーセーブが何度もさく裂し、日本が辛くも勝利している。それでもPK戦1番手の中村俊輔、2番手の三都主アレサンドロが相次いでシュートを外した時には、記者席で見守っていた私も「もはやこれまでか」と半ば観念しかけたものである。当時(04年7月)の両者のランキングは、日本24位でヨルダン37位。してみると日本は、まさにピーク時のヨルダンと対戦していたことになる(その後、彼らは一気に順位を落とし、このところ3ケタ台が続いている)。

あれから7年。日本は当時のメンバーのうち、すでに1人が現役引退、2人が代表引退を宣言している。今回のメンバーに残っているのが、代表キャップ数100の遠藤保仁ただ1人という事実に、今さらながらに時の移ろいを実感せずにはいられない。その遠藤も、当時の思い出について質問されて「昔のことなので、あまり覚えていない」と語っていたそうだ。ちなみに遠藤は、この時の試合では後半11分に中田浩二と交代して退き、PK戦を行うエンドが途中で交換されるという、前代未聞の事態をベンチで目撃している。

今大会の日本は、7年前の対戦をテレビ映像でしか知らない、若いメンバーばかりで構成されている(香川真司や権田修一は、まだ15歳だった)。これは言うまでもなく「次世代の成長」を目標に掲げる、ザッケローニ監督の指針に基づいた選手選考である。不確定要素の多いアジアでの戦いの中で、内容を求めながらも若い選手の成長を促す――。環境的にも日程的にもハードではあるが、決して避けることのできないミッションが、今まさに始まろうとしていた。


ジーコ更迭論も出ていた当時、中国で行われたアジアカップで日本代表は優勝して、ジーコでW杯ドイツ大会に臨むことになった。難しい試合の連続だったが、結果は残したということで内容は問われることはなかった。極めてリアリズムなサッカーが追求されたことになる。

当時に比べれば、日本代表のサッカーは戦術的に洗練されたし、国際大会での評価も上がっている。グループ分けにも恵まれた。となれば、優勝しかないとメディアが騒ぎ立てる。足を掬われるのはこんなときで一歩一歩踏み出すところに視線を落とさなければならない。

ザッケローニに期待するのは選手を集中させること。だったのだが。

結果、スタメンはこうなった。
GK川島永嗣。DFは右から、内田篤人、吉田麻也、今野泰幸、長友佑都。MFはボランチに長谷部誠と遠藤、右に松井大輔、左に香川真司、トップ下に本田圭佑。そしてワントップに前田遼一。スタメン中、海外組は8人でW杯経験者も8人(サポートメンバーの香川を含めれば9人)。そして何より、ブンデスリーガ前期MVPの香川がいる、W杯で2ゴールを決めた本田がいる、そして2シーズン連続Jリーグ得点王の前田がいる。これほど得点のにおいが感じられる日本代表の布陣が、かつてあっただろうか。このスタメンを見た少なからずの人が、日本のゴールラッシュを予感したことだろう。

しかしそうした期待は、時間の経過とともにボロボロと崩れていく。ヨルダンは、当初考えていた以上にコレクティブなチームであった。少なくとも「ドン引きからカウンター一辺倒」という、ステレオタイプな中東のイメージとは、かなりニュアンスが異なる。ポゼッションで優位に立つ日本に対し、巧みにコースを消しながらじりじりと間合いを詰め、前線の前田や本田にボールが入ると2人以上で巧みに奪いにかかる。そして攻撃に転じると、右の7番アメル、トップ下の18番ハサン、そしてワントップの14番A・デイブの3人が、有機的に連動してチャンスを作る。

対する日本は、慎重な入りから徐々にペースを上げ、25分を過ぎたあたりから相手ゴールに迫るようになる。40分、右サイドから内田が折り返したボールを前田がスルーし、その後ろで受けた香川が一気に抜け出してシュート。これはヨルダンGKシャフィの見事な飛び出しに阻まれるが、この試合で最も日本らしさが感じられたシーンであった。その調子で先制点を――そう思っていた矢先、何とヨルダンに先制点を許してしまう。45分、長友が守る左サイドが崩され、パスを受けたハサンに遠藤がスライディングで飛び込むも、相手の巧みな切り返しにかわされ、シュートを打たれてしまう。しかも弾道は、シュートを止めようと伸ばした吉田の足に当たり、コースを変えてゴールイン。守護神・川島は一歩も動けず。予想外の展開にスタジアムが騒然とする中、ほどなくして前半終了のホイッスルが鳴り響いた。


騒然となったのは日本代表の関係者だけで、ヨルダン側はおおいに盛り上がっていたのだが。日本側から見たら大事件ではあったろう。

ヨルダンはリアリズムに徹してスペースを消し、パスコースを限定してボールを奪いにかかった。マンパワーでスペースを埋めるわけではなく、戦術的にスペースを消して日本の攻撃を限定した。GKシャフィのビッグセーブも決して偶然ではなくコースを絞っていたために読まれたという結果にすぎない。

日本の選手は落ち着いて入り、ザッケローニはプラン通りにゲームを進めたがゴールを奪えないという状態に加えて、先制点を奪われるというひどいゲームになってしまった。

最初に指揮官がテコ入れしたのが、ワントップである。前田に代えて李忠成。前半の前田は、確かに孤立する場面が多かったが、決して出来が悪いわけではなかった。むしろこのシチュエーションで、これが代表初キャップとなる李に託すのであれば、それなりのリスクを覚悟しなければならないだろう。それでも、わずか45分でワントップを入れ替えたのは「何かを変えなければ、現状を打開できない」というメッセージを、ピッチ上の選手たちに送ろうとする意図があったのだと思う(残念ながらこの日の李は、シュートゼロに終わっている)。

続いて後半13分には、存在感が急速に薄れていた松井を下げて、岡崎慎司を投入。このタイミングで、本田と香川のポジションも入れ替えた。岡崎については、左サイドからたびたびクロスを入れて攻撃を活性化させた。問題は、香川と本田の関係である。試合後のスタッツによれば、香川はこの日、チーム最長の1万1120メートルを走っている。しかしその割には、得点を予感させるシーンは少なかった。連係不足は明らかだが、それ以上に本田との役割分担が明確でなく、互いの良さを消し合っているようにさえ見えた。トップ下に入ってからの香川は、バイタルエリアで受けてチャンスを作る場面が見られるようになったが、逆にサイドに回った本田が随分と窮屈そうに感じられた。

このように、ベンチは何とか事態を好転すべくカードを切るのだが、ピッチ上ではプレーヤーの気迫が空回りするばかり。クロスを上げてもファーサイドに人がいなかったり、ドリブルで強引に突っかけても相手の守備ブロックに阻まれたり、頼みの綱のセットプレーも精度を欠いたり、すべてが裏目に出てしまう。典型的な日本の負けパターン。いささか絶望的な気分になったアディショナルタイム2分、ようやく土壇場で日本が追いつく。ショートコーナーから長谷部がクロスを上げ、これを吉田が高い打点で合わせてネットを揺さぶった。まるで「ドーハの悲劇」を日本が逆の立場で再現するかのような、劇的な同点ゴール(編注:94年W杯・米国大会のアジア予選最終戦で、日本はアディショナルタイムにショートコーナーからのクロスをヘッドで合わされ失点し、W杯への道を閉ざされた)。ザッケローニ率いる若き日本代表は、まさにアジアの混沌(こんとん)に飲み込まれる寸前で、辛くも勝ち点1をもぎ取ることに成功したのである。


香川は積極的に真ん中に入り、本田圭佑の居場所はサイドへ追いやられることになる。本田圭佑の不調はやりたいポジションでプレーできなかったことではないか。大久保松井が両ワイドで構えたワールドカップ南アフリカ大会とは違い、香川と本田圭佑が重なることでサイドアタックの威力が半減したのは事実。前田に効果的なボールが入らなかったのは事実だが、本田圭佑と香川の役割分担がはっきりしていなかったのが原因だろう。松井にボールが行かなかったことで右サイドからのサイドアタックも回数がなくなり、日本はパワープレーに頼ることになっていくわけだが。

結果的には吉田があがるパワープレーで勝ち点1を拾った。苦しんだ経験はアジアでも簡単に勝たせてもらえないという現実を選手たちが受け入れるいい薬になったと思う。

試合後のザッケローニの会見からは、安堵(あんど)感以上に、憤まんやるかたない思いが感じられた。ボールポゼッションは68対32。シュート数は17対7(枠内シュートは7対2)。数字上でこれほど相手を圧倒しながら、それでも終了間際まで0-1の戦いを強いられたのだ。ヨーロッパ、とりわけクラブ間の力の差がはっきりしているイタリアでは、あまりなじみのないケースだろう。いずれにせよ、今日の試合で指揮官自身がアジアの混沌をリアルに体験できたこと、そして何より「勝ち点1」を確保できたことは、むしろ幸運であったと考えるべきであろう。

会見が終わり、プレスルームで作業していると、備え付けのモニターにサウジアラビア対シリアの模様が映し出されていた。日本が所属するグループBの裏の試合である。最初はチラチラ見る程度だったのだが、38分にシリアが先制してからは目が離せなくなった。戦前は、前回準優勝のサウジが有利との見方が一般的であったが、なかなかどうして、シリアは個々の選手が実にスキルフルで、縦にボールを運ぶ速度が圧倒的である。後半15分、サウジは何とか同点に追いつくも、その3分後にはすぐさまシリアが勝ち越しに成功、これが決勝点となった。この結果、勝ち点3を得たシリアがグループ首位、日本とヨルダンが2位、そしてサウジはいきなり最下位に沈むこととなった。

ちなみに最新のFIFAランキングによれば、サウジ81位、シリアはヨルダンよりも下の107位である。だが初戦を見る限り、このグループで最もチームの完成度が高いのは間違いなくシリアだ(やはりアジアでは、FIFAランキングは当てにならない)。そんな彼らと、日本は4日後の13日に対戦する。当初は楽観していたゲームであったが、しばらく目を離している間に中東の勢力図は大きく変化していたようだ。第2戦も厳しい戦いとなることは間違いだろう。

とはいえ、ここはむしろ前向きに考えるべきだと思う。少なくとも、日本の初戦の相手がシリアでなく、ヨルダンであったことはラッキーだった。そして、この段階でアジアの怖さを学習し、その上で勝ち点1をもぎ取ることができたのもまた、ラッキーであった。さらにいえば、ヨルダンの守備の要でキャプテンのハテムが負傷退場したことが、吉田の同点弾の伏線となったことも、これまた本当にラッキーだったと思う(当のハテムには申し訳ないが)。そうして考えると、今大会の日本はかなりツキに恵まれているのかもしれない。シリア戦までの中3日、ザッケローニと選手たちがこの日の教訓を踏まえて、どれだけ修正してくるのか。期待をこめて見守ることにしたい。


ザッケローニが修正する点はたくさんある。本田圭佑と香川の共存をどうするか。岡崎、香川、松井と2列目に並べたほうがいいのではないか。本田圭佑を1トップに置くという方法もある。香川がウイングとして振る舞えないことが明らかになった以上、変更は必要だろう。

2 件のコメント:

どらぐら さんのコメント...

勝利が予想された試合でのドローなので、正直良い気分ではないですが、いろいろと課題が出たという意味では悪くなかったと思います。
準備不足は否めませんし、初戦としては最低限の結果を残したというところでしょうか。

気になるのはFWが点を取れない、そして目立たないという点。
代表デビュー戦となった李忠成に多くを望むのは酷ですが、エースの前田が早々に引っ込んでしまうのは問題です。

kiri220 さんのコメント...

>どらぐらさん

決定機を作りながらもゴールを決められなかったのは課題ですね。
前田はシュートはほとんど撃ってないですからね。

ヨルダンが組織化されていて強かったのもありますが、日本は戸惑っている感じでしたね。
押しているのに点が取れないって言う。