2011年1月22日土曜日

ザッケローニは勝利でも反省を忘れず、アジアレベルで存在感を見せる!!

AFC Asian Cup 2011 Qatar Quarter-finals Japan 3-2 Qatar @ Al Gharafa Stadium
Japan:Kagawa 28,70,Inoha 89
Qatar:Sebastián Soria 12,Fábio César Montezine 63

カタール戦後 ザッケローニ監督会見 (1/2)
AFCアジアカップ2011
(Sportnavi)

難しい試合になることは試合前から分かっていたが、非常に厳しい試合になった。常に(日本にとって)上り坂のゲームだった。相手の方がフィジカルが強く、それを前面に押し出すサッカーをやっていた。日本次第だったところは、いかにテンポを上げて、いかにスペースのあるところでプレーをするか。本音を言えば、やりたいようにやれたわけではないが、比較的狙い通りにできたとは思う。特に、狭いところへ狭いところへと行ってしまうと、相手のフィジカルに押しつぶされてしまうので、もっと広いところでやろうという話はしたが、それもまあまあできたと思う。最後は10人になってしまったが、結果的にウチの方がボールポゼッションが多かったし、データにもそのように出ている。また技術面だけでなく、10人になってから試合をひっくり返したということで、気持ちの面でも評価している。最後のゴールに関しても、DFの選手が点を決めたところに、日本の良さが出ていたと思う。


苦戦の原因は噛み合わせの悪さか、戦術理解の差か。ジャッジが地元びいきということもあって、日本は苦しんだ。ランキングは関係なくカタールは強いチームだったし、日本を追い込んだ。カタールがリードしてからポゼッションに徹していれば簡単に追いつくことはできなかたった。先制、勝ち越しを奪われてから早い時間帯で追いついたのはよかった。狭いところでパスを通すサッカーに慣れていることで難しいことをやりすぎてのミスパス連発は直すべき課題と思うが、苦しいゲームを勝ちきったことは大きな自信につながる。強いチームしか残らない上のステージで結果を残していくのは難しいが、メンタルで負けないことを証明したのは大きかった。

――ハーフタイムでの指示は? 後半の入りで選手が集中していないように見えたが(大住良之/フリーランス)

前半の良くなかったところの修正を選手たちに伝えた。具体的には1つ目として、ペナルティーエリア外のこぼれ球を向こうは23番(セバスチャン)に当てて、そこからセカンドボールを早く詰めてくるので、ウチのDFとMFに「セカンドボールを先に触るぞ」と伝えた。2つ目に、スペースの狭いところにどうしても行ってしまうので「スペースを作って広いところでウチのサッカーをしよう」と話した。前後半の相手の立ち上がりの良さは分かっていたことなので、テクニカルミーティングで選手に話していたのだが、これは相手を褒めたたえるべきだと思う。正直、彼らはこれ以上の戦いはできなかったと思う。ウチが向こうの嫌なところを突いて、向こうも特長を前面に出してきて、これ以上の戦い方はできなかっただろう。しかしウチのミスから点を取られていたので、そのあたりのケアも必要だと思う。


ザッケローニの答が今の時点でこれ以上の戦いができなかったということなのか、チームとしてピークでできなかったなのかはわからない。ただ、立ちあがりの早さはカタールに分があったのは事実だ。日本は考えすぎて動けなかったのが本当のところではないか。指示を理解して試合に入ることができるまでにはまだ時間がかかる。強豪国でも苦労する部分をどう改善していくか。アジアカップで見えてきた課題は大きい。

――2点目を取られた後、どのように選手を鼓舞したのか? また10人になってから、何をどう変えたのか?(外国人記者)

特に細かい指示を出したわけではないが、チームにバランスの良い戦い方をさせることを念頭に置いてフォーメーションを組んだ。前田の代わりにセンターバックの岩政を入れて、4人のディフェンスラインをそのままにして、2人のボランチに3人の攻撃的なMFを配置した。岡崎、本田圭、香川だ。さらに長谷部や伊野波、もしくは長友のどちらかが上がってくる攻撃的なサッカー。10人になったところで、普通のチームであれば守備重視になると思うが、やはり勇気をもって攻めていった。それが、この勝利に結びついたと思っている。

ウチは10人になって選手が疲れていて、香川、岡崎、そして伊野波もいつもとは違う右サイドのポジションゆえの疲れもあった中、よくやってくれたと思う。(相手は日本より)数的優位になった中でも、攻撃の形は変えずに23番に当ててこぼれ球を狙ってきた。その意味でも、ウチにチャンスをくれたのかもしれないとも思っている。

――カタールのメツ監督が日本がカタールを怖がっていた(※)と話していたが、満足できなかった点を教えてほしい(外国人記者)

相手には敬意を払わねばならない。カタールは開催国だし、勢いはあった。だからウチがやってはいけなかったのは、相手の土俵に上がってしまうこと。フィジカルのつぶし合いなったら、ウチが不利になるということを伝えた。狭いスペースではなく、広いところでウチのサッカーをやらないといけないと思っていた。

先ほども言ったが、ウチが常にそれができていたわけではない。今後の課題というか気なったところは、状況によってもっとスピードを上げていなかいといけない。今日の試合でも、ウチのDF間でのパスが多く、なかなか前に進めない状況もあった。ただ、カタールもいい出来だったし、相手もいることなので仕方がないとは思っている。もうひとつの課題として(相手の)2点目。そんなに強いシュートでもなかったし、あれがゴールになってしまったのは、ウチに反省すべきところがあったからだと思う。

(※)実際には、メツ監督は「われわれは日本を恐れさせた」と語った。


10人になってからのコーディネートで名をあげたザックにとって少ない状況は慣れているのだろう。慌てることなくチームを落ち着かせ、ゴールをふたつ奪ってカタールを下した。もちろん、カタールが攻撃サッカーを貫き、ポゼッションで日本からボールを遠ざける方法をとらなかったこともあるが、簡単な状況ではない中でホスト国から勝ちを奪ったのは大きい。

だが、選手の戦術理解はまだまだ足りない。ザックは歯がゆさを感じているのではないか。ワイドに開くべき選手が中に入り込み、中央の人口密度が高いわりに、サイドアタックは両サイドのフルバック任せというブラジル流のサッカーをしていた。ウイング然と構えるべき香川、岡崎がふたりとも真ん中でカタールの守備も真ん中が固くなった。もっと開いてワイドアタックなら違った結果になったのではないか。ザックの選手選考にも問題があり、ワイドの選手がいないのも大きいのだが。

カタールの2点目についていえば、吉田のミスパスから2枚めのイエローという流れであり、高い位置でファールを与えたことが問題だった。たしかにニアは詰めるべき選手がいなければならず、誰もいなかったのは課題だろうが、言い出したらすべての失点を防がなければならなくなってしまう。理想を追いかけるのはすばらしいが足りないところは認めなければならない。

――10人になってからの3-2の勝利、しかも終了間際に開催国を相手に逆転勝利を収めたことについて、自身のさい配に満足しているか? またイタリアのさい配術は、世界でもトップレベルにあると思うか?(外国人記者)

2つある。1つは、世界的に見てイタリアの指導者は守備重視で、自分たちの良さを出すよりも、相手の良いところをつぶしていくというイメージが一般的だと思うが、今日はそうではないイタリア人もいることを発信できたことはうれしく思う。もう1つ。わたしは日本代表監督になった時から、このチームには勇気とバランスをもって戦ってくれと(選手に)伝えてきたし、そのコンセプトをもってやっている。今後も相手がどこであれ、相手の力に左右されることなく、勇気をもって日本のサッカーをやっていくのが、このチームの目標である。

――香川について、今日の彼は2000万ユーロ(約22億5000万円)の価値のあるプレーをしたと思うか?(外国人記者)

わたしは強化部長ではないので、選手の値段を付けることはできない。監督なので彼がピッチ上でどれだけできるのか、またチームに何を与えるか、ということは分かっている。このチームでは、前のポジションで代え(の選手)が多くない中で、サイドから中央へ切り込むアタッカーとしての役割を担っている。それに関して、彼のプレーには満足している。今日の試合に関しては、前半は中盤に戻って(ボールを)もらいすぎていて、彼の良さを生かしていなかったが、後半はかなりワイドに開いて、彼らしいプレーができた時には、非常にいい動きができたと思う。とにかく、チームのために貢献してくれる、いい選手だと思う。

――この後、韓国とイランの勝者と試合をするが、どちらがやりやすいと考えるか?(韓国人記者)

まず、この場を借りて岡崎選手の2人目のお子さんが生まれたことについて、おめでとうと言いたい。ここまで来たら強いチームしか残っていないので、特色こそ違えど、どこが来ても大差はないと考えている。それよりも、われわれがどれだけ「最後まで残りたい」という気持ちを持つか。また、どこが来てもわれわれが、相手よりもいい部分を出せるか、ということを考えたいと思う。次の試合は、11人で終われればいいのだが(苦笑)。


イタリア=カテナチオという固定観念はなかなか取り払われないようだ。スペースを潰し、相手のよさを消すサッカーが主流でタクティクスがもっとも難しいリーグだが、攻撃的なスタイルのチームしか勝ちあがれない。イタリア人監督が攻撃サッカーを提唱していることも忘れてはならない。

ザックは日本にポゼッション重視の攻撃サッカーを持ちこんでいる。システムは4-2-3-1だが、実際は3FWだ。前田は不運なアクシデントで二度までも途中交代となったが基準点として機能していた。日本のよさをザッケローニは今のところ引き出している。だが、このままではアジアで勝つことができても世界を驚かせるまでにはいかない。戦術理解を高め、ポジショニングの理解を向上させて、相手を圧倒できるように指導しなければならないだろう。

(ザッケローニ監督囲み)

試合前に選手たちにアウエーでも勝ちにいく姿勢を見せないといけない、アウエーでも勝ち切らなければいけない、このチームはそうでなければいけないと言った。日本でやる時だけ勝つのではなく、外に出ても勝てるようなチームにしていきたい。

今日の試合では10人になってもウチの選手たちは力があるから、引かないで戦えたことが良かった。怖かったのは相手が1人多くなってボールを回してくることだった。相手のスタイルは変わらず、23番に当ててきたので、ウチにとっては有利だった。

香川のゴールも大切だが、彼にはゴールだけを望んでいるわけではない。チームのためにやってくれと話している。時に、彼はチームのことを考え過ぎて、今日の前半のように引き過ぎてしまったりする。だが、チームにとって大切な選手だと選手自身が自負しているから、やはり犠牲心を持ってやってくれているのではないか。


日本代表の問題は国内の試合が多すぎてホームの環境に慣れていることだ。完全アウェイは公式戦じゃないと味わえない。ヨーロッパに遠征してフレンドリーマッチをやっても観客は半分も入らないことが多いのだ。カタール戦は大きな経験だった。W杯開催が決まっている国で強化が進み、サッカー熱が高まっているアウェイはなかなか体験できることではない。メツ監督はこのゲームでさらに学んだだろうし、強敵になるのは間違いない。ザックが考えている以上に選手は意識しなければならないのではないか。勝てば忘れるのではなく、なぜ苦戦したかをしっかりと見直してほしい。

■カタール代表メツ監督

「われわれは日本を恐れさせた」

テクニカルな面でもスキルの面でも、いい試合だったと思う。日本というビッグチームに対して、われわれカタールはフィジカルでもタクティクスでも優位に戦っていた。その点でわれわれは賞賛されるべきだと思う。カタールはその強さを全世界に披露することができたし、われわれは日本を恐れさせた。ただし非常にハイレベルな試合だったため、選手たちは肉体的に疲弊してしまった。3つの失点は、いずれもわれわれのミスによるものだ。だが、われわれは敗れこそしたが、誇るべき敗北であった。(それくらい)今日の試合のパフォーマンスについては非常に満足している。


カタールのパフォーマンスはすばらしかった。しかし、ハイレベルな戦いにはまだ選手が対応できないことも明らかとなった。これからの課題になるだろう。メツ監督はリードしているときの試合の進め方を選手に教える必要がある。守りに徹することではなく、相手に簡単にボールを渡さないという意味で。

破れはしたがカタールは素晴らしいチームだった。W杯予選で闘うときにはさらに素晴らしいチームになっているのではないか。

勇気がもたらした逆転劇 (1/2)
日々是亜洲杯2011(1月21日)
(Sportnavi)

アジアカップは21日からノックアウトステージ。日本はいきなりホスト国カタールと対戦することになった。会場のアルガラファ・スタジアムは、いつもはキックオフ30分前でも閑散としているのだが、この日は自国の大一番が、しかも金曜日(イスラムの休日)に行われるとあって、スタンドの埋まり具合も順調である。準々決勝を「大一番」というのは、いささか大げさに思われるかもしれない。実はカタールが、アジアカップでグループリーグを突破するのは、今回がやっと2度目である。前回、準々決勝に進出した2000年のレバノン大会では、残念ながらベスト8止まり。そんなわけで「史上初のベスト4進出を懸けた試合」という意味では、十分に「大一番」と言えるだろう。

最多タイ、3回のアジアカップ優勝を誇る日本にとっても、この準々決勝は決して気が抜けないステージである。いやむしろ「鬼門」と言ってもよいだろう。1996年のUAE(アラブ首長国連邦)大会では、クウェートに0-2で敗戦。2004年の中国大会では、ヨルダンとの絶体絶命のPK戦の末に「奇跡の生還」。07年の東南アジア4カ国(インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム)大会でも、オーストラリアとPK戦までもつれて劇的な勝利。圧倒的な強さで決勝まで進んだ00年大会を除けば、必ずといってよいくらい、この準々決勝で苦戦を強いられているのである。これを「鬼門」と呼ばずして何と呼ぼう。

もうひとつ、予断を許さないデータがある。これまでのカタールとの対戦成績は、7戦して日本の1勝4分け2敗。何と、負け越しているのである。もっとも、最後に敗れたのは今から23年前に行われたアジアカップでのこと(88年カタール大会)。ただし当時の日本は、大学生主体のB代表だったので、あまり参考にはならないだろう。その後も、アジアカップでは何かと手合わせする機会が多く、00年大会と07年大会では、いずれもグループリーグで対戦。2試合とも1-1の引き分けに終わっている。負けてはいないが、さりとて勝ち切れてもいない。こうした過去の戦績に加え、今回は彼らのホームであること、指揮官が日本との対戦経験が豊富なブルーノ・メツであること、そして何より、日本にとって「鬼門」の準々決勝であること。これらを考慮すると、決して簡単な試合にはならないことは明白である。実際、その通りの展開となった。


ホストカントリーとのゲームはいつも難しい。過去の対戦成績は選手が入れ替わっており参考程度にしかならないが、日本はクォーターファイナルでもっともやりにくい相手とあたったことになる。完全アウェイで審判の笛もカタールよりになりがち。カタールは声援に乗って攻めてくる。対応するのは容易なことではない。いかに平常心で闘っていけるか。メンタルの強さが問われる試合となった。

この日のスターティングイレブンは以下のとおり。

GK川島永嗣。DFは右から、伊野波雅彦、吉田麻也、今野泰幸、長友佑都。守備的MFは長谷部誠、遠藤保仁。2列目は岡崎慎司、本田圭佑、香川真司。そして1トップは前田遼一。出場停止明けの川島、そして足首ねんざで大事をとっていた本田圭がいずれも戦列に復帰したことを含めて、想定内の布陣である。

序盤からペースを握ったのはカタールだった。9分、FWのセバスチャンが強烈なシュートを放ち、今野に当たってこぼれたところをMFメサードが詰めるも、川島がセーブ。その直後には、またもメサードが25メートルの距離からミドルシュートを放ち、これまた川島が片手で辛うじて防ぐ。何とも言えぬ不安感が漂う、日本の立ち上がり。そして12分、ついに不安が現実のものとなった。メサードからのロングパスに、セバスチャンが日本のディフェンスライン裏に一気に抜け出す。一瞬、オフサイドかと思ったが、どうやら逆サイドで伊野波が残っていたようだ。セバスチャンは、対応した吉田を難なくかわしてシュート。弾道は吉田の股間を抜き、さらに川島のグローブもはじいてゴールネットに突き刺さる。カタール先制!

日本にとっては、ラインコントロールのミス、その後の対応のミスという、二重のミスによる手痛い失点となった。

カタールの攻撃は、決してバリエーションは多くない。後方からのパスを前線のセバスチャンにぶつけて、そのルーズボールを後方から走り込んで拾う。あるいは、もう1人のFWユセフ・アフメドが、俊足でDFを振り切りながらロングパスを受ける。そしてセットプレーでは、ローレンスが正確なキックで際どいコースを突いてくる。ちなみにセバスチャンはウルグアイ出身、ユセフ・アフメドはサウジアラビア出身、ローレンスはガーナ出身、そして右サイドから正確なキックを放つメサードはイエメン出身。カタール代表のキーマンは、こうした帰化選手で占められている。メツは日本のことを「アジアのバルセロナ」と称したが、国際色豊かなカタールは、まさに「アジアのインテル」と呼ぶべき陣容である。

そんな、フィジカルとスピードを前面に押し出してくるカタールに対し、ようやく日本が反攻したのは28分。敵陣で香川からパスを受けた本田圭が相手の裏に浮かせたパスを送り、呼応した岡崎が走り込む。そしてサウジ戦での1点目のように、ループで相手GKの頭上を抜き、ゴールに到達する寸前で走り込んできた香川が頭で押し込んだ。香川にとっては、待望の今大会初ゴール。とはいえ、9割方は岡崎の仕事である。この日、第2子が誕生したという岡崎は、チームメートと「ゆりかごダンス」を披露。日本はその後、35分に長谷部がミドルシュート、43分には香川が左足ダイレクトでゴールを狙うが、いずれもネットを揺らすには至らず、前半は1-1で終了する。


カタール相手に楽勝と考えたファンは多かったのではないか。サッカーにあまり詳しくない日本代表ファンの中にはカタールは本戦に出たこともないし、強くないのではというイメージ先行の思いこみがあった。だから、先制点でパニックになりかけた。少なくともテレビ観戦でアナウンサーはパニックになりかけていた。実況がパニックになればファンに伝わる。といって冷静ではいられない。どうするべきか。難しいところだ。日本の攻撃が効果的ではなかっただけに先制されたことは痛かった。

しかし、選手は思った以上に成長しており、日本代表はすぐに追いつく。本田圭佑からのパスを受けた岡崎が落ち着いてGKブルハンの頭を越し、香川がしっかりダメをおした。このゴールで日本はリードされた時間を最小限に押さえることができ、落ち着いて前半をプレーすることができた。

後半、日本に求められていたのは、とにかく落ち着いて試合に入ることであった。ところが開始わずか1分で、吉田がセバスチャンを倒してしまい、カタールにFKのチャンスを与えてしまう。幸い、ローレンスのキックは枠をそれるが、吉田にはイエローカードが提示された。そして後半18分、ユセフ・アフメドの突破をスライディングで止めようとした吉田のプレーが、またしてもファウルの判定を受け、2枚目のイエローで退場。シリア戦に続いて、日本はまたしても10人での戦いを強いられることとなる。しかもFKの位置は、ペナルティーエリア右。キッカーは、これまたブラジルからの帰化選手で、途中出場のモンテシンである。「壁が1人しかいないけど、大丈夫?」と思っていたら、案の定、モンテシンの左足でニアを思い切りぶち抜かれてしまった。カタールの勝ち越しゴールが決まった瞬間、アルガラファのスタンドは地元ファンの歓呼の声で揺れた。日本、絶体絶命の大ピンチである。

やはり準々決勝は、日本にとって「鬼門」であった。1点ビハインドで、1人少ない状態で、しかも完全アウエー。だが、ここで問われるのは、この状況を「絶望的」とネガティブにとらえるか、それとも「成長のための試練」とポジティブにとらえるかであろう。ザッケローニ率いる若き日本代表は、間違いなく後者であった。キャプテンの長谷部は言う。「とにかく顔を上げてプレーしようとみんなに言って、みんなが最後まであきらめずにゴールに向かっていった」。ベンチの動きも迅速だった。前線で消えていた前田を下げて、DF岩政大樹を投入。極端な前掛かりにするのではなく、さらなる失点を防ぐことから着手する。常にバランスを重視する、いかにもザッケローニらしいさい配だ。そしてここから、10人になった日本の奇跡の逆転劇が始まる。

後半25分、本田圭の縦パスから岡崎、香川とつながり、相手DFに当たったボールが再び香川へ。躍動する背番号10は、GKとの1対1を制して左足でネットを揺さぶる。前半の1点目は「ごっつあんゴール」だったが、今度はドルトムントでの活躍をほうふつとさせる見事なフィニッシュであった。さらに44分、長谷部のスルーパスを受けて、またしても香川がドリブルで中央に切り込む。相手DFはファウル覚悟でつぶしにかかるが、右にこぼれたボールを伊野波が確実に詰めていた。日本、土壇場で逆転に成功!

奇妙な静寂に包まれる中、アディショナルタイムは4分と表示される。セカンドボールを拾いまくり、なおもセバスチャンにボールを集めようとするカタールに対し、10人の日本は最後まで冷静に対応。大きなクリアと前線でのボールキープ、そして選手交代(香川から永田充へ)で巧みに試合を殺し、3-2のスコアで無事にタイムアップを迎える。この瞬間、日本の4大会連続のベスト4進出が決した。


ヨーロッパレベルのゲームなら吉田のファールはともにイエローではない。オランダでプレーしている吉田は戸惑ったのではないか。しかし、アジアカップでは主審の判定は絶対だ。日本は後半開始早々にひとり少なくなり1点ビハインドとなった。試合巧者なら確実にゲームを殺しにかかる時間帯でもあった。

カタールの経験不足で日本は10人でもポゼッションを失うことなく、攻撃を繰り出すことができた。香川のゴールで追いつくと、ドリブルでボールを失っていた香川のドリブル突破から伊野波が決めて逆転。そのあとの時間帯を確実にゲームを殺すことで乗り切り、日本はセミファイナルへ進出した。今後ホスト国を破ったことで声援は薄くなることは確実だが、カタールにとってはベストゲームであり、すばらしいエンターテイメントであった。

ザックがリアルスティックに3バックでアタッカーを減らさないイタリア時代の采配を執っていたら違った結果だったかもしれないが、ザックは日本にあう戦術で結果を残すことに成功した。

「ゴールだけは良かったと思います。ほかは全然(ダメ)だと思います。ミスも多かったし、動きの質もだし、(体も)重たかったですし」(香川)

この日、誰よりも長い距離を走り(1万852メートル)、誰よりも多くのシュートを放ち(3本)、その結果として2ゴールを決めた香川は、一方で誰よりも今日のプレー内容を反省していた。確かに、チームの勝利には大きく貢献していたが、同時に狭いスペースでの足元プレーからボールを奪われ、たびたびピンチを招くことになった。もちろん、反省すべきは香川だけではない。不用意なファウルを繰り返して退場となった吉田、ポジショニングと壁の指示で判断ミスが目立った川島、またしても前線で消えてしまっていた前田……。何かと反省材料の多いゲームであったことは否めない。それでも、10人の日本がカタールに逆転勝利できたのはなぜか。その理由は「正直、彼らはこれ以上の戦いはできなかったと思う」というザッケローニの言葉に集約されている。

「怖かったのは、相手が1人多くなってボールを回してくることだった。相手のスタイルは変わらず、23番(セバスチャン)に当ててきたので、ウチにとっては有利だった」

相手が経験不足のカタールではなく、試合巧者のイランやイラクや韓国だったら、さすがにこうはいかなかっただろう。その事実は肝に銘じるべきである。とはいえ今日の勝利が、さまざまな収穫をチームにもたらしたことも忘れるべきではない。アジアレベルのレフェリングを体感できたこと。不利な状況下でのシミュレーションができたこと。その上で、勝利という成功体験が得られたこと。さらに2試合、戦えるようになったこと。その2試合を通じて、さらなるチームの成長が期待できること。こうして考えると、どんなに内容が悪く、課題が多かったとしても、それ以上に得られるものが多かった、非常に価値ある勝利だったと言えるだろう。そして、この価値ある勝利を引き寄せたのは、最後まで勝負をあきらめずにゴールを目指した、選手たちの勇気であったと確信する。そんなわけで、今回は指揮官のこの言葉で締めくくることにしたい。

「私は日本代表監督に就任した時から、このチームでは勇気とバランスをもって戦うように(選手に)伝えてきた。今後も相手がどこであれ、相手の力に左右されることなく、勇気をもって日本のサッカーをやっていくのが、このチームの目標である」


ミスが多かった試合ではあった。何度もボールを失い、ゲームの主導権をカタールに奪われた。カタールは数少ない攻撃のスキルを磨いて必殺の武器としていた。セバスチャンのゴール、モンテシンのゴールはともに集大成だった。

日本の攻撃はセットプレーとコンビネーションでのゴールを主においている。前田がポストになり、こぼれ球を拾って突っ掛けていく。難しいプレーに挑もうとする。もちろん、チャレンジは必要だが、昨日は中央突破にこだわりすぎた。サイドアタックが苦手と弱点も露呈した。

ザックの修正はかなり難しくなるはずだ。選手選考でサイドの選手が選ばれなかったことも大きいが、日本が勝ち進んでいく、世界に通用するようになるには世界基準の攻撃サッカーを身につける必要がある。ザックの手腕はどこまで通用するか注目したい。

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