Japan:Maeda 36,Hosogai 97
Korea Republic:Ki Sung-Yueng 23(P),Hwang Jae-Won 120
韓国戦後 ザッケローニ監督会見 (1/2)
AFCアジアカップ2011(Sportnavi)
非常にタフな試合になった。日韓戦はフレンドリーマッチであっても大変な試合になるのに、大会のひとつの試合ということで、さらにすごい試合になった。試合を分析してみると、前半は日本が良かったように思う。サイドからいいコンビネーションで崩して、少なくとも3つビッグチャンスがあった。それでも先制される形になって、同点、逆転と、また上り坂の試合内容になってしまった。後半に関しては韓国の方が良かったと思っている。フィジカルで押してきて、韓国の方が走れているという印象を受けた。また、ロングボールからセカンドを拾ってくる形でかなり押し込まれてしまった。(2-2となった)同点ゴールについてだが、終了間際に取られてしまい「簡単にいかないな」という感じだったが、韓国の戦いについても称賛しないといけない。非常にまとまっているチームという印象を受けた。そういった素晴らしいチームに勝てたことで、喜びはさらに増したと思っている。
前半はミラーシステムであり、日本は韓国の両ワイドの攻撃を抑えており、噛み合わせが非常によい展開となった。PKで先制されたが日本のアタックは機能しており、同点に追いついたのは必然だった。前半の45に限れば決められるところで決めておかなければならないゲームだった。後半に入り、韓国は戦局を打破するために両ワイドのポジションを入れ替え、さらにシステムを変更して日本はマッチする相手を見失うことが多くなった。ザッケローニのシステム修正力が働かなかったことは間違いない。かなり押し込まれる展開が続き、韓国にチャンスが訪れた。システムを変更して韓国と同じミラーシステムにしたが、振り回されていた日本は運動量が落ち、スタミナでまさる韓国に対してカウンターを中心に攻める戦術となっていた。結果的にはお互いにもらったPKをゴールに繋げ、さらに1点ずつ奪ってドローとなった。最後は5バックにしたことで韓国の3FWとの噛み合わせが悪くなり、攻め込まれる時間が長くなったことは間違いない。べたべたと人数をおくシステムでは守りきれないことがわかったのではないか。
――日本にとって細貝がひとつポイントだった。90分で終わらせるなら他の選択もあったと思うが、細貝を選んだ理由は?
細貝だが、投入のきっかけはチームが疲れて間延びしていると思ったからだ。前でなかなかボールをキープできなくなって、中盤でスペースを作らせてしまった。中盤は非常に大切な部分なので、そこの穴を埋めるために細貝を投入した。
――オーストラリアとウズベキスタン、どちらが決勝で戦いやすいと考えるか?(サウジアラビア人記者)
日本にとっては、どちらが来ても変わりない。どちらも欧州スタイルのサッカーをやっており、しかもフィジカルが強い。決勝なので、強いチームしか上がってこない。両者とも準決勝まで来ているので強いチームだと思う。
――120分間の終わり方が良くなかったが、PK戦にどういったことを気を付けるように選手に指示したか。また川島がこの試合で活躍したことについて
PKの前に取られた点のことは忘れて、切り替えるように、自信をもって行ってくれ。勝ちに行こう、という話をした。川島に関してだが、先日も言ったように選手の選考基準に変わりはない。監督の考えとしては、GKが良くないから試合の最中に代えるのは、あまり好きではない。いいGKはミスが少ないGKだと思っているが、ミスが全くない選手は存在しない。ここ数日、彼は私の信頼を感じているし、信頼していると本人にも伝えた。今日も試合前に彼には「信頼しているから落ち着いてプレーするように」と話した。今日の試合もやるべきことをやってくれたし、それ以上の活躍をしてくれたと思う。
細貝の投入は転機だった。香川が動けなくなっていて、攻撃の連動性がなくなり、本田圭佑頼みの攻撃は単発。岡崎の決定機を決められず、厳しい試合となっていた。セミファイナルで疲れていない選手はいないが、動けなくなっていては試合も活性化しない。細貝はスタメンではなくフレッシュであり、動きを期待されていた。少なくともインコントリスタではなくインクルソーレとして期待されていたはずだ。
しかし、選手交代では長谷部の負傷のときに本田拓也の準備ができていなかったことは大きなマイナスだ。李忠成の投入が決定的で、本田拓也の気持ちが切れていた可能性はあるが、人心掌握術に長けた監督とは思えないミスだった。勝つにはピッチにいる選手だけではなく、ベンチも含めて戦わなければならない。試合終了の瞬間まで気持ちを切ってはならないのだ。長谷部の怪我からかなり時間があったがアップができてなかったことは本田拓也の責任なのか、ザックの責任なのか。
――厳しい試合が続いたが、5試合中3試合で先制され、2試合で10人になった。その中で日本選手に新しい発見はあったか?(大住良之/フリーランス)
日本代表監督に就任して間もないころから「グループの和を乱さない選手を選びたい」と言ってきた。日本人のチーム一丸となる姿勢というものは、この大会を通じても見て取れた。この大会では、気持ちやフィジカルを前面に押し出してくる中東のチームには苦労するという話は皆さんからも聞いていたし、実際にそうなった。それに対し、われわれはチーム力で戦ったと思う。ボールポゼッションからリズムを変えてコンビネーションで崩すというサッカーをやってきたが、引かれて守る相手にはなかなか厳しいとは感じていた。
今日もそうだったが、うちの失点はほとんどセットプレーが絡んでいる。今日の2点目もそうだが、セットプレーから流れたところでゴールを決められた。フィジカルで押し込まれたときに、どこまで対応できるか。また、気持ちなどでカバーできるのかということを、これからも模索していきたい。大会を通じて、日本がどこよりもいいサッカーをしていると思う。ゴールも13ゴール決めている。わたしが就任する前からあったかどうかは知らないが、このチーム力、チームスピリッツというものが、日本人の特徴だと思う。
――現段階でオーストラリアがウズベキスタンに2-0で勝っているが(最終スコアは6-0)、日本がアジアのナンバーワンと言えるのではないか? というのも、オーストラリアは地理的にアジアとは思えないのだが(イタリア人記者)
日本がアジアでナンバーワンなのかどうかは分かりかねる。アジアのサッカーの状況を説明すると、アジアは今、非常に伸びてきていると感じている。その中でも、日本はトップレベルの成長を見せている。日本のサッカーに関して、プレー内容ではもしかするとアジアで一番かもしれないが、サッカーというものはゲームメークだけで決まるものでなく、さまざまな要素が入ってくる。だから、何をもってナンバーワンを定義するか、というところで議論は平行線をたどることになるだろう。
話は変わるが、これからワールドカップ(W杯)予選が始まる。それに向けても、今回アジアカップ3位以内に入ったことで、次回大会に自動的に臨めることは、強化面としてありがたいと思っている。W杯予選を見据えて今大会は若いチームを連れてきているので、このチームが成長して、W杯予選あるいは本大会にいい状態で臨めるのが、このチームの目的だ。
チームの和という言葉がイタリア人のザッケローニの口から出るとは驚きだが、日本人の強みと教えられたか、あるいはザックはもともとチームをまとめるために意識しているかのどちらかだろう。今まではクラブの監督ばかりでセレクターの代表監督の経験はなく、好きな選手を招集できるなら個性が表れるのは当たり前のことだ。
招集した選手は攻撃的オプションに欠けるが、攻撃に特徴がある選手が個性的過ぎてチームの和を乱してしまうのか、単なる戦術的な問題なのかはわからない。中央に偏りがちだった攻撃も前半はサイドからの崩しが見られていいゲームではあった。
アジアカップでファイナリストになったことで選手は自信を持ったのは間違いない。世代交代でブラジルに行くためのメンバーは若返る。選手たちが自信をもってプレーすること、アジアの強さを肌で感じたことは素晴らしいことだと思っている。
――カタール戦の後の会見で前後半の立ち上がりを指摘していたが、今回の展開をある程度予想できていたか?
日本はおそらく、今大会で最もフィジカルコンディションで苦労したチームだと思う。海外組、国内組、それからJリーグが終わった選手もいれば、試合を続けていた選手もいる。そのばらつきの部分で、フィジカルコンディションを調整していくのが難しかった。また、チームのベースとなるところも、これから作っていかないといけない。韓国戦だが、相手が準々決勝を120分戦っているので、今日の試合で少しは疲労が見られると期待していたのだが、試合が始まってみると普段通りの韓国で、あてが外れた感じになってしまった。後半は相手のフィジカルと走力の部分で押し込まれたところがある。
――前半、いいプレーができていたが、これは現地に入ってからチームに浸透していたものなのか?
このような大会では試合間隔が非常に短いので、フィジカルトレーニングがなかなかできなかったし、やれることは非常に限られている。そのかわり戦術トレーニングは、ある程度はできる。選手はわたしが説明したことを吸収しようという意識が非常に強く、わたしが望んでいることをピッチで実践する技術もある。この選手たちの練習を見ているのは楽しいし、わたしの言っていることをさらに実践してくれることを期待している。
――PK戦に入る前に、微妙な判定で日本がPKを得たことについて。また、全体的なレフェリングについてどう思うか?(外国人記者)
私はジャッジの話は好きでないが、韓国のPKも日本のPKも必要なかったと思う。
コンディションで苦しんでいるのは他の国も同じ。韓国も海外組、国内組の構成だし、コンディションは同じ。さらに中2日で延長を戦ったダメージもある。とはいえ、試合になれば言い訳はきかない。コンペティションで優勝を目指す以上、勝つための戦力を集めることは当然だからだ。
もちろん、日程の問題があり、アジアカップ直前まで試合があった選手もいたのは事実。Jリーグの監督からも天皇杯の日程見直し要望が出ており、転換期にあるのは事実だろう。
こういう条件でザッケローニはフィジカルではなく、戦術トレーニングでチームの成熟度をあげることを選んだ。苦しい試合でも日本が勝ちに繋げているのは戦術理解がある程度進んで相手の弱点が見えているからではないか。
PKについては与えられるなら両方に、与えられないならなかったほうがよかったのは事実。PKがなければ日本が勝っていたとは言えないのだが。
(以下は囲み取材)
まずは今日、会場まで駆け付けてくれた日本のサポーターの皆さんにありがとうと伝えたい。今日勝つことができて、決勝まで駒を進めることができて非常にうれしく思っている。日本でたくさんテレビの前で応援してくれているサポーターもいるので、その人たちも含めて喜びたい。このチームはピッチで全力を出し切る、自分たちが持っている力を出し切る素晴らしいチームだと思う。常に出し切るところが素晴らしい。
一番大切な試合が最後に残ったが、やはり決勝ということで、この大会のベストの2チームが当たると思う。われわれ日本代表がこの大会に求めているのは経験だった。経験を積みに来たわけだが、ここまで来たら最後は勝ちたいと思う。勝利に近づくためには選手のフィジカル面での回復(が重要)。完全に回復すれば、ウチのサッカーができると思っている。
(カタール戦より冷静に試合を見ていた?)そのへんの調整ができるリモコンを持っているわけではないので、本能的なものになってしまう。うれしい気持ちには変わりない。監督という職業の人間は、チームが持ってるものをピッチで出してくれたときはやはりうれしい。
(後半に韓国が4-3-3にして、日本は細貝を入れたが)チームにとって要となるのはMFだ。そこでバランスを作らなければならない。やはり(選手たちが)消耗してきていたので、チームが間延びしてしまった。だから中盤を1枚入れようと思った。最後は5バックになったが。試合の最後、向こうはフィジカルで押してきていたため、それに対応することが大事だった。それでウチのペナルティーエリア内を固めるために1人投入した。それでもウチは本田と岡崎の2トップで最後までやった。
(PK戦直前に失点したが、どういうふうに声をかけたのか?)ウチが失点するときはセットプレーからか、その流れでやられることが多い。フィジカルではやはり分が悪い。あの時点でゴールを取られて非常に悔しかったが、自分の選手たちを見た時、まだまだいけると確信した。(PK戦は監督が順番を決めたのか?)まあ、カタール戦の前に実は決めていた。(カタール戦では不調だった川島が1試合でリカバーした?)最高の試合になったね。本人にとって。
ザッケローニはラストチャンスをうまく活用している。イタリアのクラブから声が掛からなくなった状態で日本代表という成長過程のチームを率いて結果を残している。あと一歩で優勝。タイトルはずいぶん遠ざかっていて、ザックにとってモチベーションが高い試合になるだろう。心配なのはその点だけだ。
選手管理はフィジカルの問題で、フィジオやトレーナーがいるし、選手も無茶はしない。ライバルの韓国に勝ったことでモチベーションも高くなっている。クリーンシートはならなかったが川島がリセットできたのも大きかった。
ファイナルはたいへんだが、勝つ気持ちを強くもてるのではないか。
■韓国代表チョ・グァンレ監督
「韓国サッカーに素晴らしい未来が待っている」
非常に難しい日本との試合だったが、選手たちは「ネバーギブアップ」の精神で最後まで戦い抜き、最後までプレッシャーをかけ続けた。そして、延長後半終了直前に同点ゴールを決めることができた。彼らのファイティングスピリッツをたたえたい。PK戦については、これまでの練習でもPKの準備をしてきたのだが(失敗したのは)選手たちが消耗し切っていたからなのかもしれない。
(日本のPKについては)レフェリーも人間なので間違うこともあるだろうし、それもまた試合の一部だとは思う。だが、レフェリングのミスについては、アジアサッカーのレベルアップのためにも(審判の質を)向上させていくべきではないか。
(パク・チソンとイ・ヨンピョの引退について)この大会が終わるまでは、特にわたしから言うことはない。ただ、新しい選手も育ってきており、世代交代については楽観視している。今日のゲームで選手たちは、韓国サッカーに素晴らしい未来が待っていることを全世界に見せたと感じている。
最後に、決勝に進出した日本に「おめでとう」と申し上げておきたい。
最後まで諦めずに戦う韓国は見事だった。オランダ人監督から学んだことを吸収し、韓国人監督で十分に戦える人材が出てきたことを証明した。レフェリングにはどちらの側にも問題があったが、当人が言及しないのはマナーだろう。日本に対してリスペクトを示してくれたように、韓国にも最大のライバルとしてリスペクトの気持ちを送りたい。
勝因は「信じる力」 (1/2)
日々是亜洲杯2011(1月25日)(Sportnavi)
「韓国はちゃんとサッカーをしてくるし、5試合目でやっとフットボールができる」(長谷部誠)
日本代表のキャプテンを襲名してから早8カ月。このところの長谷部の“コメント力”には目を見張るものがある。もともとよく声が通るし、質問者の目をまっすぐ見て話す姿勢にも好感が持てるし、何より自分の意見を明確に言語化する能力もかなり高い。最近はこれらに加えて、発言に含蓄が感じられるようになった(そのうち「長谷部語録」なんて本が出てくるかもしれない)。冒頭に紹介したコメントは、韓国戦前日のものだが、「フットボールに専念できる」というこの言葉には、今大会の特殊性に対する長谷部なりのシニカルな思いが含有されていて、何とも味わい深い。
長谷部がまず念頭に置いたのが、中東独特の主審の判断基準であったことは間違いない。もちろん、日本に不利な判定を意図的に下す審判はいなかったと思うが、それでも客観的に見ても納得いかないジャッジや、常識的には考えられないレフェリング(たとえば交代選手がピッチに入り切る前に試合を再開させるなど)が少なからず散見されたのは事実である。それを「アジアン・クオリティー」と言ってしまえばそれまでだが「そんなことではアジアのレベルが上がっていかない」という長谷部の指摘ももっともだと思う。加えて日本は、ここ4試合ずっと中東勢とばかり戦ってきた。ほぼ完全アウエーのスタンドの雰囲気に加え、「打倒、日本」という目標で一致していた中東勢の包囲網を突破することが、いかに容易ならざるミッションであったか、今さら多くを語る必要はないだろう。
そんなアウエー感満載の中東にあって、不倶戴天(ふぐたいてん)の宿敵・韓国と相対することになり「やっとフットボールができる」という妙な安堵(あんど)感が芽生えるのは、何と言う皮肉であろうか。言うまでもなく日本にとって韓国は、間違いなく世界中で最もやりにくい対戦相手である。これまでの長い対戦の歴史の中で、勝てばこれ以上にない絶頂と優越感を、敗れればどん底の屈辱と挫折感を、常にわれわれに味わわせてくれた。そんな愛憎相半ばするライバルでも、中東という異世界に迷い込んだ日本にとっては「地獄で仏」の心境になってしまうのであろうか。いずれにせよ、日韓両国にとって中東の地はニュートラル。1993年ワールドカップ(W杯)・米国大会予選以来となる、中東での日韓戦の実現を、多くの日本のサッカーファンは心から楽しみにしていることだろう。かくいう私も、この決戦がもたらすフットボールの至福を、記者席にてとことん味わい尽くす所存である。
中東の大会で優勝した経験があるのはイエメン大会の日本だけ。その他は中東勢が優勝を独占してきた。日本、韓国、オーストラリアという強豪を迎え、中東は彼らに対する包囲網を強いた。しかし、セミファイナルに残ったのは日本、韓国、オーストラリア、ウズベキスタンと中東勢以外。この結果により、中東の笛の意味はなくなり、アジアカップは正常なフットボールの大会となったということだろう。とはいえ、レフェリングが不安定なのは続くのであるが。
この日の日本のスタメンは以下の通り。GK川島永嗣。DFは右から、内田篤人、岩政大樹、今野泰幸、長友佑都。守備的MFは長谷部、遠藤保仁。2列目は岡崎慎司、本田圭佑、香川真司。そしてワントップは前田遼一。前日の予想通りである。さすがにザッケローニは、あえてGKを変えるリスクを避けたかったのだろう。賢明な判断だと思う。チャンスをもらった川島は、前回のカタール戦でのミスを返上すべく頑張ってほしいところ。対する韓国は、サスペンションのDFイ・ジョンスに代わってファン・ジェウォンが入った以外は、こちらも現時点でのベストメンバー。ク・ジャチョルがいる、キ・ソンヨンがいる、チャ・ドゥリがいる、チ・ドンウォンがいる、そしてこれが代表100試合目となるパク・チソンがいる。相手にとって不足はない。
序盤、韓国はいつものようにゴリゴリと前に出てこなかった。やはり日本相手ということで、慎重にならざるを得ないのだろうか。それに比べて日本は、韓国以上にアグレッシブであった。相手の裏を狙う動きを見せながら、着実にチャンスの数を重ねていく。間違いなく言えるのは、この日の日本は気負いなく攻撃のリズムが作れており、対する韓国は思いのほか体が重い、ということだ。日本より1日休みが少ない上に、準々決勝のイラン戦では120分の死闘を繰り広げ、疲労がまだ回復していないのであろう。
先制点は意外な形で生まれる。前半22分、韓国陣内からのロングフィードに走り込んできたパク・チソンを、今野がペナルティーエリア内で倒してしまう。すると主審は即座にPKを宣告。リプレー映像を見ると、今野はボールを見ずにパク・チソンともみ合いながら倒してしまっている。何ともアンラッキーな判定だが、アジアカップでは十分に起こり得ることだ。その意味では、うかつであったと言わざるを得ない。1分後、このチャンスをキ・ソンヨンに決められ、日本はあっけなく韓国に先制を許してしまう。
だが、これで気落ちする日本ではなかった。36分、それまでたびたび左サイドからチャンスを作っていた長友が、本田圭からのスルーパスを裏で受けてドリブルで持ち込みクロスを供給。これに前田が倒れ込みながらも、右足ワンタッチで見事な同点ゴールを決める。決めた前田も素晴らしいが、対面するチャ・ドゥリの裏を再三突いて、決定的なラストパスを送った長友も素晴らしかった。試合前日、当人は「左サイドを制圧しますよ」と語っていたが、まさに有言実行。その後も44分に、本田圭の縦パスを中央で受けた前田が、惜しい反転シュートを放つなど、前半の日本は韓国を圧倒。1-1でハーフタイムとなったが、後半での逆転は時間の問題であるかのように思われた。
立ちあがりは日本が好調だった。前半攻めきっていれば韓国の猛攻を許すこともなかったはずだが、PKで1点を献上し、同点に追いつくことが精一杯だったことで、最多ゴールの国らしからぬ戦いを強いられることになる。フィジカルと走力を温存したわけではなかろうが、韓国は後半になってシステムを変えて猛攻を仕掛けるのだ。
後半も、日本が相手陣内でボールを支配する時間が続いた。しかし、そこで生まれた気持ちの余裕が、かえって日本のリズムを崩すこととなった。バイタルエリアまでボールを動かすものの、余計なボールタッチやパスミスからチャンスをつぶしてしまう。特に、香川が強引にシュートまで持ち込もうとするあまり、球離れが悪くなっていったのが気になった。そして日本の思わぬもたつきは、相手に盛り返す機会を与えてしまう。後半21分、ワントップのチ・ドンウォンを下げ、DFのホン・ジョンホをアンカーに置くことで中盤を落ち着かせた韓国は、次第にセットプレーとロングボールで攻勢を強めていく。一方、日本ベンチは後半42分、疲れの見える香川を下げて細貝萌を投入。こちらもセントラルMFを3人にして、中盤での主導権を何とか取り戻そうと試みる。結局、90分でも決着はつかず、試合は延長戦に突入した。
延長前半6分、今度は日本にPKのチャンスが転がり込む。本田圭のスルーパスに、岡崎が裏に抜けようとしたところを、ペナルティーエリア内で相手DFにブロックされて倒されたのだ。しかし、これまたリプレー映像を見ると、岡崎が倒された地点はエリアぎりぎりだったことが分かる。今度は韓国にとって、アンラッキーなジャッジであった。PKキッカーは本田圭。左足から放たれたシュートは、いったんはGKチョン・ソンリョンにはじかれるも、細貝がしっかり詰めていた。日本、勝ち越しに成功。ここでザッケローニは、逃げ切りを決断する。延長前半16分、前田に代わって伊野波雅彦、そして延長後半12分には、負傷した長谷部に代わって本田拓也をピッチに送り込み、システムは5-3-2となった。対する韓国は、日本が苦手とするロングボールを執拗(しつよう)に放り込みながら、何とか青い守備網を突き破ろうとする。そしてタイムアップ間際、セットプレーのチャンスを得ると、ゴール前での混戦からファン・ジェウォンが押し込んでネットが揺れる。土壇場で韓国が追いつき、勝負の行方は今大会初のPK戦に委ねられることとなった。
劇的な同点弾に、狂喜乱舞する韓国の選手たち。一方、スタンドでは韓国サポーターが、勝利を確信したかのように「アリラン」を歌い始めた。延長戦終了直後の韓国サイドは、まさにお祭り騒ぎ。だが今にして思えば、この瞬間、韓国の人々は何かがプツリと途切れてしまったのだと思う。その後のPK戦では、先行の日本が4人中3人成功させたのに対し、韓国は3人続けて失敗(そのうち2回は川島のファインセーブに阻まれた)。チョ・グァンレ監督は、失敗の理由について「選手たちが消耗し切っていたから」と語っていたが、私は「経験の差」であったと思っている。日本のキッカー4人とGK川島は、いずれもW杯・南アフリカ大会の対パラグアイ戦でPK戦を体験している(キッカーに選ばれたのは本田圭のみだが、岡崎と長友はピッチ上に、今野はベンチにいた)。あのしびれるような緊張感と、試合後の挫折感を知る者であれば、アジアカップ準決勝のPK戦など、さほどのプレッシャーは感じなかっただろう。最後は今野が、ネットを豪快に揺らして長い激闘に終止符を打ち、日本は2大会ぶりとなるアジアカップ決勝進出を果たした。
ペナルティ・シュートアウトの場面で、韓国の気持ちが切れたとは考えづらい。PKは運であり、それ以上のものではない。しかし、キ・ソンヨンが失敗したことで連鎖的に続いたのは間違いない。その意味でも川島のビッグセーブは大きなものだった。
後半、韓国がシステム変更したことに対応できなかったことは日本の大きな課題になるだろう。コンビネーションで点を取るシステムが個人技に頼りすぎたことで、リズムを崩しはのは間違いない。ザッケローニはもう一度、選手に戦術理論を教え込む必要があるだろう。日本人選手は何度でも忘れてしまうものだから。
試合後の監督会見。先に登壇したチョ・グァンレ監督は、ひととおりの質疑応答を終えると「最後に一言」と断りを入れてから「決勝に進出した日本に『おめでとう』と申し上げておきたい」と語った。続いて会見に臨んだザッケローニも「韓国の戦いについても称賛しないといけない。素晴らしいチームに勝てたことで、喜びはさらに増したと思っている」と、こちらも相手への称賛を忘れなかった。そういえば両監督は試合後に、がっちりと握手を交わしながら互いの健闘をたたえていた。そうしたリスペクトの姿勢を見るたびに、サッカー好きで本当に良かったと心底思う。
あらためて、今回の日韓戦勝利の意義について考えてみたい。まず「51年ぶりのアジア王者」を渇望していた宿敵韓国に、PK戦にもつれながらも勝利したことで、選手には大きな自信と経験が得られ、そしてチームにはさらなる成長がもたらされた。それだけではない。決勝進出を果たしたことで、次回大会の予選が免除され、さらには最多4回となる優勝の可能性と、2年後のコンフェデレーションズカップ出場権獲得の可能性さえ出てきたのである。決勝の相手はオーストラリアに決まったが(準決勝でウズベキスタンに6-0で圧勝)、かくなる上は優勝を目指して最後まで突っ走ってほしい。今の日本なら、十分にそれは可能だと思う。
ところで今日の試合では、指揮官ザッケローニの哲学が、またひとつ明らかになっている。最後に、その点について指摘しておきたい。この日のヒーローが、PK戦も含めて何度も味方のピンチを救ったGKの川島であったことは、衆目の一致するところであろう。一時は「西川周作に代えられるのではないか」ともうわさされていた川島を、なぜザッケローニはこの試合でも起用したのか。指揮官はこのように述べている。
「いいGKはミスが少ないGKだと思っているが、ミスが全くない選手は存在しない。ここ数日、彼は私の信頼を感じているし、信頼していると本人にも伝えた。今日も試合前に彼には『信頼しているから落ち着いてプレーするように』と話した。今日の試合もやるべきことをやってくれたし、それ以上の活躍をしてくれたと思う」
「こんな言葉を上司から言われてみたい」と思った人は、男女問わず決して少なくないはずだ。川島だけではない。カタール戦で消えていた前田を懲りずに起用し、PKで失敗している本田圭をあえてPK戦の第1キッカーに指名したのは、いずれもザッケローニの判断によるものだ。結果、今日の試合では3人とも、指揮官の信頼に見事に応えてみせた。一度失敗した選手でも信頼し続け、重要な局面で再びチャンスを与える。よほど肝が据わっていないと、なかなかできることではない。もちろん「勝利のために非情になり切れない監督」という見方も可能だろう。しかしながら、自分の目で選んだ選手を最後まで信じるという姿勢も、チーム作りのアプローチとしては十分に「あり」なのではないか。少なくとも、今日の日韓戦の勝利を支えていたのは、こうした指揮官の「信じる力」であった――そう、私は確信している。
日本の監督と韓国の監督がともに相手をリスペクトできる監督であったことは素晴らしいことであり、ザックであってよかったと思う。ザックの評価はまだまだ高くはないが、相手を悪く言わないという美徳は備えている。
さらに、マネージメントでもザックは最後まで試合を任せる度量の広さを見せた。信頼されて何度でも失敗するなら続けて使われることはないが、すぐに失点を取り戻すなら使う価値がある。気持ちの強い選手たちが結果を残したことで、日本代表はさらに強くなったといっていいだろう。
最後にオーストラリアに勝つためにはやはり両サイドのアタックが重要ではないか。岡崎、香川のワイドアタックが見られるなら、オーストラリアも簡単にカウンターを繰り出せない。韓国戦で詰まったサイドアタックを意地でも押し通す。頑固さがあってもいいと思う。
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