2011年6月2日木曜日

ザッケローニの戦術は浸透していなかった

International Friendly Match Kirin Cup 2011 Matchday 1 Japan 0-0 Peru @ Tohoku Denryoku Big Swan Stadium

ザッケローニ監督「問題は中へ入ってしまったこと」 (1/2)
キリンカップ2011 ペルー戦後会見
(スポーツナビ)










3月11日の震災以来、初めて代表チームとしての公式試合になった。この試合の目的は、新しいシステムがどこまで機能するかということと、今回初めて招集した選手がどれだけできるかをチェックすることだった。ワールドカップ(W杯)予選まで残り時間が少ない中、こうした試合を通じて、できるだけ選手の情報やデータの収集に役立てたいと思っている。

この3バックは2日間しか練習できない中、また3人の選手(本田、長友、吉田)が試合前日でないと到着できない中、それでも3-4-3システムを試してみたいと思っていたが、個人的に必要と思っていた情報は収集することができた。当然、配置されている選手が違ってくるので、思ったよりかはうまくいかなかったかもしれないが、新しい選手であったこと、新しいシステムであったことを思えば、うまくいかないことも想定内であると考えている。問題はどこかというと、うちがボールを持っているとき、ポゼッションしているときに問題が顕著になったと思う。守備はまあまあの出来だったと思っているが、攻撃の際にサイドにスペースがあるのに、中へ中へ入ってしまったことが問題だったと思っている。

両チームとも中盤でかなりスペースを消すような戦いになったので、終盤で(相手は)かなりシュートを打っていたが、それまでは打たれない展開だったと思う。当然、後半になってから、われわれが慣れている(4バックの)システムにして、ボールポゼッションも高まった。試合を通しては、ポゼッションでは五分五分だったと思う。ペルーのコンディションも上がってきているという印象を受けた。コパ・アメリカ(南米選手権)に向けて準備していると聞いていたので、当然ながら試合終了間際まで彼らのコンディションは落ちなかった。


ザッケローニが執った3-4-3は3ラインがフラットに並ぶかたちで同じ3-4-3でも中盤がダイヤモンドとなる3-3-3-1とは違う。ピッチ上に描かれる三角形は非常に少なく、サイドに2枚あるとはいえ、ウイングが中に絞っていたためにパスコースが限られていた。中盤でもサイドでもパスコースを探さなければならず、プレースピードはスローにならざるをえなかった。

遠藤や長谷部が下がってプレーしていたが、そのために西はプレーできなくなり、攻撃が機能したのは安田がいた左サイドだけだった。関口がプレーエリアを理解していなかったために、中に入りすぎていたこともあるが、同時に岡崎もどこにいるのかわからない状態で、前半はまったく機能していなかった。

現在のJリーグの主流が4バックで3バックに慣れていないこともあるが、戦術理解を選手ができなかったことに問題があるだろう。

フラットな3ラインの場合、両サイドの突破力が問題になる。右サイドの西、関口、左サイドの安田、岡崎の連携で突破と指示しておけば違ったはずだがそこまで徹底できなかったようだ。










――これからチェコ戦まで時間があるが、次の試合でも3-4-3を試すつもりか?

当然、チーム状況や選手のコンディションを把握して決めていくことになる。現時点で3バックを行うのは、ややリスクを背負いすぎるかもしれないが、わたしの仕事としては、このチームの引き出しを増やすことだと思っている。今日もかなりの交代があったが、けがなどによりやむを得ずカードを切ったものだ。チェコ戦まで数日あるので、可能性があればまた(3-4-3を)やろうと思っている。ただ何度も言うが、欲しかった情報というものは、ある程度は手にすることができた。

――就任以来、まだ負けていないことについてどう思うか?

できれば今日も、本当は勝ちたかった。やはり自分のチームが目指すところは、常に自分たちのサッカーを展開すること。今回に関しては、これまでの試合と比べて少しそれができなかったと思う。今日ももう少しうまくやれば、スペースがもっと見つかったと思うが、相手の中盤が5枚並んでピッチ中央で人が密集してしまった。サイドにスペースがあったという印象があったが、(システムが)慣れていなかったのでそれができなかったようだ。

ペルーも称賛に値するチームであり、ピッチの中央のところでプレスを掛けてスペースを消していた。うちの選手の状況は、海外組はバカンスに入ってからの合宿になったし、Jの選手はタイトなリーグと(AFC)チャンピオンズリーグを戦っているということもあり、ペルーの方がフィジカルコンディションが上ということは、ある程度は想定内だった。

――西に怒っているように見えたが、もっとできると思ったのか?

西に特別怒っていたわけでないが、たまたま自分に近いサイドにいたので(苦笑)。ほかの選手の指示も西に伝えていたので、そう見えたのかもしれない。西については今日が代表デビューとなったわけだが、少し緊張していたのは当然だと思う。彼の魅力は走力であると考えている。今日も前にかなりスペースができていて、そこにもっと走り込めたと思うが、もともと慣れていない上に、トレーニングできる時間も限られていたので仕方がないと思う。

ペルーの5枚の中盤のラインを越えることができたら、関口、岡崎、西で相手のサイドバックに対して数的優位を作ることができたと思うのだが、今日はそれができなかった。わたしとしては、このシステムがうまく機能するようにしていきたいし、こうしたシステムに対応できる選手を(今後も)招集していく。慣れの問題だと思う。


日本人選手はサイドアタックへの意識が薄い。プレーエリアを守る戦術も徹底していない。サイドアタックは両サイドのフルバックの仕事と考えている節がある。ウイングをおいても中に絞ってサイドで数的有利を作れないのはそこにある。

サッカーのゴールは中央にあり、中央から攻めたほうがゴールに近いのは事実だが、当然相手はゴール前をがちがちに固めてくるわけで、できるならCBを中央から引き剥がしたい。ギャップを作るためにサイドからの攻撃を仕掛けるのであり、サイドから中央、中央からサイドにボールを動かして、人も動かしてスペースをこじあける。ポゼッションを目指すならパスを繋げるように三角形を作るべきだ。フラットな3ラインではポゼッションは難しい。

ザッケローニはペルーのラインを超えてと表現したが、ラインを超えるプレッシングショートカウンターを目指すにしては中途半端な試合だった。今のままではザッケローニの3-4-3はどこに向かっているのかわからない。








――守備はまあまあということだが、前半は5バックになってしまう時間帯もあった。そうなると3-4-3の良さが出ないと思うが、どう評価するか?(大住良之/フリーランス)

おっしゃる通り、5枚になるのはいい傾向ではない。(相手に)うちのペナルティーエリアに来られた場合は、5枚になるのは仕方がないと思うし、あまり練習もできなかった。後ろが5枚になって、前線に3枚を残しているので、そうなると中盤は2人になって負けてしまう。もしくはFWをさらに下げる選択肢もあるが、わたしはそれはしたくない。違ったところでバランスを取らないといけないと思う。

――関口の評価と、岡崎とのポジションチェンジについては?

関口は良かったと思うし、チームに貢献してくれた。岡崎と関口を替えたのは、右サイドに西と関口という、ほぼデビューに近い選手が並んでいたので、代表では実績のある岡崎を持ってくることにした。

――初招集で出番のない宇佐美について、ここ数日を見ての感想は?

何度も言ったことだが、彼を招集したのは彼を手元に呼んで対話したかったからだ。認識してほしいのは、彼は五輪代表の選手でA代表の選手ではないということだ。彼には素晴らしい未来があり、期待もしている。それを良くするのも悪くするのも、彼次第ということだ。


ザッケローニは3-4-3を3バックにも4バックにも対応するシステムだと説明しなかったか。

5バックになっていては本末転倒だ。釣瓶の動きで攻められた側のウイングバックが最終ラインに下がり、逆サイドのウイングバックがカウンターに供えるというならわかるが、両サイドともに下がってしまっては、ロングカウンターしか攻め手がなくなってしまう。

もちろん、守備と攻撃の選手を分けて、前の3人だけで点を取ってこいというシステムもあるが、それはモダンサッカーではない。完璧なシステムはないし、フラットな3ラインが悪いわけでもないが、リスクマネジメントがきちんと出来なければ、宝の持ち腐れになってしまう。いや、フラットな3ラインには強烈な個が必要だ。本田圭佑を入れると3-4-1-2になってしまい、あまりにもひどい状態になる。噛み合わせはほとんどのシステムとも悪く、押し込まれる展開になる。

慣れているシステムだから是ではない。選手が理解できないシステムはすべてダメだ。ザッケローニがフラットな3-4-3を使うのであれば、先生役としてザッケローニはきちんと戦術理解を促す必要があるだろう。







――3バックでやっている時の3人の距離感について、攻められている時に近すぎて、逆サイドが空いているように見えた。3人の距離感についてはどれくらいが理想的と考えるか?(後藤健生/フリーランス)

というよりは、慣れも問題だと思っている。西も安田もディフェンスラインでプレーすることに慣れている選手だから、そういった問題は練習を積み重ねないと解決できないと思う。わたしの理想が実現できていないのは、わたしの責任だと思っている。守備のところではうまく守れたというよりも、本質的には「点を取られなかった」というところだと思う。ある程度は守れたけれど、あのままでは攻撃はダメだよと。(最終ラインが)5人になれば、4人で守るより簡単になるのだから。

――3-4-3は、サイドのゾーンを支配するのが目的だったと理解しているが、次のチェコ戦で試すかどうかはまだ検討中だという。このシステムは攻撃的でリスキーなシステムだと思うのだが、どう認識しているか?(湯浅健二/フリーランス)

ほかのシステム同様に、3-4-3にも長所と短所がある。絶対的なシステムは存在しない。システムの問題ではなく、いかにそのシステムを理解し、活用するかだろう。例えばバルセロナはあのシステムだから勝っているのではなく、システムを最大限に理解して使うことで、(ほかのチームとの)違いを見せている。バルセロナも最初からうまくいっていたわけではないので、われわれもこれから向上していかないといけないと思っている。

3バックについて強いこだわりがあるわけではなく、今後も代表チームで使い続けるということでもない。どこかの試合でこれを出せたり、ある状況で(オプションとして)持っていればいいということで試している。ただ、日本サッカー界はサイドアタッカーを輩出しているし、サイド攻撃が得意な選手が多いという印象を持っている。


2日間の練習で3-4-3を試した結果、上手くいかなかった。何度も繰り返すが選手の理解度の問題もある。しかし、攻守のトランジションが上手くいかなかったのはザッケローニに明確なビジョンがなかったからではないか。イタリアで何度も失敗したのは3ラインに拘りすぎた結果だ。

モダンなサッカーではCBとレジスタを組みあわせて、フルバックを高くあげての一見3バックに見えるシステムでパスコースの三角形を多く作る布陣だ。ポゼッションを保つことで攻撃のリズムを作り、パスカットの成功率を高める。しかし、フラットな3ラインではポゼッションもプレスも効率的にならない。ベンゲルがフラット4からシステムを変更したのはモダンサッカーにあわせるためで、ザッケローニはやはり一世代前の指導者と言わざるをえない。

評価をしたのは柔軟度をみせたからだが、日本の報道陣にはなぜフラットな3ラインに拘るのかを聞いて欲しかった。湯浅さんの攻撃的でリスキーという質問はまったく理解できないが(実際、パスは繋がらずサッカーは停滞した)、ドイツでライセンスを取ったときからサッカーが進みすぎていてわからなくなっているのだろうか。

マルカリアン監督「日本人はサッカーに適した遺伝子持つ」
試合後、ペルー代表監督会見
(スポーツナビ)







――ガッカリしている様子だが、最後は勝ち切れなかったという感じか?(大住良之/フリーランス)

ガッカリはしていない。とてもハッピーだ。なぜなら、選手たちがやるべきことをやってくれたからだ。ボール支配率も両チーム同じくらいだったので、特に残念には思わない。また、ゴールチャンスもシュートを放った回数も、われわれの方が多かったと思う。本来なら、この試合には勝てたかもしれないが、日本が非常に良いチームであったこと、状況に応じて状況にふさわしい選択をしたことによって、われわれは勝てなかったのだと思う。

――日本は前半と後半でシステムを替えたが、対戦してみて気になったか?

日本がシステムを替える可能性があるとは思っていた。われわれペルーもベースとするシステムがあるが、日本が使っている4-2-3-1も試みている。(日本は)MF3枚という可能性もあると思った。当初はそういうシステムだったと思う(※編注:日本は3-4-3でMFは4枚)。自分たちは4-3-3で大変な局面もあった。後半は良かったが、前半はサイドが下がってしまった。これは日本に合わせていて、そうなってしまった。

――互角以上のサッカーをしてくれて、日本にとっていいトレーニングになったと思う。ところでペルーはFIFA(国際サッカー連盟)ランキングでは日本(14位)の3倍くらい下にあると思うが、そのことについてどう思うか?(湯浅健二/フリーランス)

アイ・ドント・ノー(会場、笑い)。FIFAランキングはあくまで自分たちの位置を知る1つの目安だと思う。このチームはスタートして10カ月になるが、当初は84位で今は50位台だと思う(※編注:最新ランキングは54位)。われわれの目的としては、可能な限りFIFAランキングのベスト10に近づけたいと思う。


ペルーは最後まで勝ちに来てくれた。そのことには感謝したい。ペルーが本気でプレーしてくれたことで、日本の問題点が明らかになったからだ。中核となる選手が出ていたにも拘わらず、連携がうまく行かなかったことはシステムの問題か、戦術理解の問題か、それとも新たなことを試みたからかわからないが、結果はゴールレスのドローだった。その意味では、現地点で日本はペルーの守備陣に対して崩しきれるだけの手札がなかったのではないか。

ランキングはまったく関係ない(フレンドリーマッチが多く、勝率が高いほどランキングは上がる)が、ペルーが目指しているのは進歩。その意味で、強い意気込みで勝利を目指してくれた。防戦一方になった後半終盤は大きな課題となり、日本は乗りこえていくべきことであろう。






――「後半は良かったけれど、前半はサイドが下がっていた」と言っていた。ザッケローニ監督は、自分たちは後半の方が良かったと言っている。ペルーとしては後半の日本の方が戦いやすいという印象だったか?

なかなか答えるのが難しいが、わたしは過去の日本代表の試合をいくつも(映像で)見てきた。特に、日本がチャンピオンになったアジアカップでの試合は全部見ている。その印象としては、対戦チームと同じ、もしくはそれ以上のレベルだったということだ。中でもフィジカルな部分で、日本は対戦相手を上回っているという印象を受けた。遺伝子的な体つきの部分は、選手の力量を測る意味で非常に重要な要素だ。わたしの印象では、日本人はサッカーに適したフィジカルの遺伝子を持っていると思う。

――対戦してみて、特に印象に残った日本の選手は誰か?

試合前、本田に注目していた。後半に投入されたが、技術的に非常にうまい。ボール保持ができるし、深いパスもできる。ただ今日に限って言えば、われわれの守備陣が非常に頑張ってくれたと思う。

――コパ・アメリカ(南米選手権)がもうすぐあるが、本大会ではどれくらい選手が入れ替わるか。また大会での目標は?(後藤健生/フリーランス)

選手に関しては変更ではなく、もともとあるリストに今回のメンバーをプラスするという形になる。今回、残念ながら来られなかった選手と、今回来日した選手を使おうと思っている。それからあえて申し上げるが、ペルーは1982年以降、ワールドカップ(W杯)に出場していない。われわれの一番の目標はW杯の本大会に出場することであり、コパ・アメリカはその準備のための通過点だ。10月に始まるW杯の予選を勝ち進むことが、われわれの本当の目標だ。


ペルーはしっかり日本を分析して戦ってくれた。ゴールこそ産まれなかったが、日本を慌てさせることに成功した。ザッケローニは前半だけで機能しない3-4-3をあきらめ、4-2-3-1に戻さざるをえなかった。現在の日本のベストで戦わなければならない状態となったことで試合は面白くはなったが、日本は機能せず、凡戦となった。ゴールレスでも面白いゲームはあるが、日本は消化不良だったと言っていい。一方のペルーはラスト10分の攻撃でアイディアをみせたことで手土産が出来たのではないだろうか。

「失われた5試合」を埋める戦い (1/2)
日本代表0-0ペルー代表
(スポーツナビ)





「このキリンカップについては(ワールドカップ=W杯=予選の)準備期間の中にあるわけだが、わたしたちにとっては、この大会そのものが重要だと思っている。このキリンカップは世界中でその名を知らない人がいないくらい有名だし、われわれもこの大会で勝利している。その過去の栄光に恥じないような戦いをしたいと思う」

ペルー代表のウルグアイ人監督、セルヒオ・マルカリアンは日本戦の前日会見で、このように述べている。ナショナルチーム3チームによる大会フォーマットとなって、今年で19回目となるキリンカップ。近年ではW杯やアジアカップといったビッグイベントの「壮行試合」という傾向が強くなり、日本以外のチーム同士の対戦が省略されることもしばしば。昨年はとうとう、大会そのものが行われなかった(もっとも当時の日本代表は、それどころではない状況だったわけだが)。キリンカップの存在意義が薄れてきた昨今、このまま消滅してしまうのではないかと少し不安に思ったものだが、本来あるべき姿で復活したことには内心安堵(あんど)している。

話をペルー代表に戻す。1982年のスペイン大会以来、ずっとW杯から遠ざかっているペルーは、今ではすっかり南米で「中堅以下」のイメージが定着して久しい。それでも彼らは、過去のキリンカップではなかなかの好成績を残している。何と、参加した99年と05年、いずれも優勝しているのだ。もっとも99年はベルギーと、05年はUAE(アラブ首長国連邦)と、それぞれ同率優勝(いずれも日本が1勝もできなかった)。決して圧倒的な強さを見せていたわけではないが、それでも「過去の栄光に恥じないような戦いをしたい」というマルカリアン監督の言葉に偽りはないだろう。今回のペルーの招集メンバーは、ベストとは言い難いものの、それでもシャルケ04で内田篤人のチームメートであるファルファンが前線にいるのは要注意だ(実際、この日のペルーは申し分のない対戦相手として、大いに日本を苦しめてくれた)。

今回のペルー代表に関して、もうひとつ。東日本大震災による原発事故がいまだに収束しないこの時期に、あえて遠い日本まで遠征してくれたことについては、日本人のひとりとして心から彼らに感謝したい。もし逆の立場だったら、果たしてJFA(日本サッカー協会)は代表チームを送り出す決断を下すことができただろうか。そうして考えると、今回のペルーとチェコの決断が、いかに尊く、ありがたいものであったか理解できるはずだ。


キリンカップが無事に開催されたこと、そして、メンバー的にベストでないものの、戦えるメンバーを送り出してくれたことに最大限の感謝をしたい。そして、日本を大いに苦しめてくれたことも。

問題点がないチームは存在しない。だが、勝ち続けることで慢心してしまう。敗戦がいいとは限らないが、敗戦に限りなく近い(日本は機能しなかったという意味で)ドローでも痛みをもって改革できるのではないか。ザッケローニの優柔不断な部分も頑固な部分も少しはマシになってくれればいいのだが。




さて、この日の日本代表のスターティングイレブンは、以下のとおりである(システムは3-4-3)。GKは川島永嗣。DFは右から、栗原勇蔵、今野泰幸、伊野波雅彦。MFは西大伍、長谷部誠、遠藤保仁、安田理大。FWは関口訓充、前田遼一、岡崎慎司。国内組が7人。しかもキャップ数1けたが5人もいる。この顔ぶれから、今の日本が置かれた状況と、ザッケローニ監督の思惑がストレートに伝わってくる。一言で表すなら「9月からのW杯に向けて待ったなし」となるだろうか。

周知のとおり、震災の影響によりJFAはコパ・アメリカ(南米選手権)への出場を断念する(その経緯については長くなるので、ここではあえて触れない)。当初ザッケローニは、コパ・アメリカで担保されるグループリーグ3試合を、W杯予選へのバッファと考えていたはずだ。どういうメンバーを指揮官が構想していたのか、今となっては知る由もないが、代表メンバーの選択肢を増やすことは十分に可能だったはずだ。それが不可能となった今、直近の公式戦であるアジアカップのメンバーをベースとし、これを発展させていくという判断は妥当――というより「それしかなかった」というのが、より実相に近いだろう。

今回のキリンカップにおける、ザッケローニのミッションは実に明確だ。W杯予選を戦うメンバーの確認とバックアッパーの確保、そして戦術やシステムのオプションを増やすことである。そしてこのペルー戦では、あえて「新戦力のテスト」と「3バックのテスト」という2つのテーマを同時に追求しようとしている。ただし「欲張り」なのではない。「余裕がない」のである。震災ショックでつい忘れられがちなことであるが、日本の最後の公式戦は1月29日。すなわちアジアカップ決勝・対オーストラリア戦である。その後、震災直後に予定されていた国内での親善試合2試合が中止となり、コパ・アメリカでの3試合も失われてしまった。W杯予選までに予定されていた8試合のうち、実に5試合が「失われた」ことになる。この損失は、やはり大きい。

ザッケローニの最近の発言を見ても「代表チームで集まる期間は非常に限られているので、できるだけ長く選手と過ごしたい」とか、「この2試合のうちに、いくつかシステムを試したいと思っている」など、準備時間の少なさを憂う内容のものが目立つようになった。そんなわけでこのペルー戦は、90分の間にできるだけ多くのことを試し、そこで得られたデータを可能な限り収集する必要があったのである。


震災の影響があるのは事実だが、天災に怒りをぶつけても仕方がない。被災された方が一刻も早く普通の生活に戻ることを祈って止まないが、サッカーが天災の影響によって進歩しなかったというのは監督の責任だ。試合が5試合なくなったのは事実で、さらに上を目指す日本にとってはテストの場が減ったことになる。だが、W杯予選までに3試合ある。いろんなテストをするには充分だろう。ペルー戦、チェコ戦で試すことは決まっているはずで、ザッケローニの腕の見せどころとなる。そのためにJリーグの試合を視察していたのだろうから。やりたいサッカーにあう選手はチェックしていたはずだ。



前半の45分間は、ザッケローニにとって我慢の時間となった。「2日間しか練習していないのだから、うまくいかないのは想定内」と選手をかばう発言を繰り返していたものの、コーチングボックスで何度も指示を出すしぐさを見ていると、やはり気が気でなかったのだろう。前半のシステムが機能しなかった一番の原因は、右の西と左の安田が攻撃の起点とならなかったことだ。しかもポジショニングが低めになってしまい、最終ラインに吸収される時間帯が多くなってしまった。こうなると、長谷部と遠藤の攻守の負担はおのずと増えてしまう。前半の日本のシュートは長谷部の2本のみ。川島のファインセーブで何とか無失点で終えたものの、このままで良いはずはない。

後半、替えるのは選手か、それともシステムか。ザックの決断は、選手交代を最小限にとどめて、システムをいつもの4-2-3-1に戻すことであった。2列目の中央に入った本田圭佑(西と交代)は自由に動き回り、最終ラインの左に下がった安田も、視界が開けたのか前半よりも積極的な攻め上がりを見せる。守備では、今野がイニシアチブを取ってラインを統率。アジアカップでの経験を経て、この人にはディフェンスリーダーとしての風格が感じられるようになった。いずれにせよ、慣れ親しんだシステムに戻すことで、後半の日本は落ち着きを取り戻すことに成功。以後の「データ収集」は、このシステムを崩すことなく続けられることとなった。

その後、ベンチはさらに5人の選手をピッチに送り出す。個人的に目を引いたのは、後半22分に長友佑都が左MFで起用され(関口と交代)、わずか4分間ながら同タイプの安田と縦に並んだこと。そして30分、伊野波に代わって右サイドバックに投入された森脇良太が、攻守にわたって積極果敢なプレーを見せていたことである(森脇もこれが代表初キャップ)。とはいえ、メンバーを急激に替え過ぎたことに加え、守備面でのケアがいささかおろそかになったことで、試合終盤は相手の猛攻を許すことになる。後半のペルーのコーナーキックは10本(日本は1本)。そのうち6本は終了10分前に集中している。いかに日本が攻め込まれていたかを如実に示す数字だ。幸い、後半も川島がスーパーセーブを連発。辛うじてペルーの追撃をかわし、0-0のまま試合終了となった。


3-4-3が悪いのではない。ただ、両サイドのフルバックが下がることで5バックとなれば守備からのロングカウンターになってしまう。相手ゴールは遠く、セカンドボールは拾えず、そしてチームは守備に疲弊する。問題は選手の並べ方であって、スターティングメンバーではなく、海外組を含めたメンバーで構成していても同じような機能不全に陥ったはずだ。3ラインのシステムは個の力に頼らなければならない。その着地点を日本は目指していなかった。ザッケローニはチェコ戦でも試すつもりらしいが、今度はどう動くのだろうか。

終盤の猛攻を浴びたことで連携や約束事がきちんと守られていたかは課題となった。ポストに守られる運もあり、ゴールは許さなかったが、決定機を何度も作られたのは事実。解説をしていた松木安太郎、セルジオ越後の両氏がともに戦術音痴で、日本のサッカーはモダンサッカーについて語れる人間が出てこられない状況になっている。それは悲劇ではないか。


「少しずつメンバーが替わって共通理解が少なかった。いつもやっているメンバーだったら、もっとやりやすいかなと思ったり」(本田)
「誰が出ても同じパフォーマンスをしないといけない。みんなが同じプレーというか、チームで求められている、監督が求めているサッカーを体現できるようにならないと、やっぱりW杯の上位には行けない」(長友)
「やりたいことが何なのかも、もうちょっと突き詰めていかないといけない。行き当たりばったりでアジアカップは優勝できたけど、自分たちが本当にどういう攻めが理想なのかっていうところを今日は見せられなかった」(岡崎)

試合後のミックスゾーンは、選手たちの反省の弁で溢れていた。とりわけ海外組の選手や、前半の試合内容をベンチから見守っていた選手からは、歯がゆさと危機感が入り混じったコメントが目立つ。海外組が主流を占めるファーストチョイスのグループと、セカンドチョイスのグループとの差が、今さらながらに浮き彫りになった感が否めない。この経験の差を埋める絶好の機会として、ザッケローニは「失われた5試合」を考えていたのだろうが、今となっては栓無きことである。おそらく7日のチェコ戦では、いつもの海外組をメーンとしながら、さまざまなシステムのオプションを試すことになると予想する。W杯予選スタートまでの余裕のなさを考えるなら、チーム内のふたつのグループの乖離(かいり)は、当面の間は目をつぶるしかなさそうだ。

最後に、個人的にうれしく、かつ不安に思ったことについて触れておきたい。この日の試合前、遠藤の代表100キャップを記念した花束贈呈セレモニーが行われた。実はこの日が107試合目。ちょうど100キャップ目がアウエーの韓国戦で、その後アジアカップもあったので、セレモニーはこの日まで持ちこされることになった。過去に100キャップを達成したのは、わずかに3人。井原正巳(122/引退)、川口能活(116)、中澤佑二(110)。いずれもDFやGKであったことを考えれば、いかに偉大な業績であるか容易に想像できるだろう。とはいえ、3年後にブラジルで開催されるW杯に34歳の遠藤がはつらつとプレーしているかと問われれば、誰もが少なからぬ不安を覚えるはずだ。

このペルー戦では、両サイドのポジションでフレッシュな選手が試されたが、最年長で唯一の3けたキャップ数を誇る遠藤は、最後までピッチに残っていた。精力的に国内外の視察を続けているザックも、こと遠藤の後継者問題に関しては、まだまだ迷いがあるようだ。おそらく年内は、現状維持をベースとしながら、ザッケローニ率いる日本代表はアジア予選を戦っていくのではないか――というのが、現時点での私の見立てである。だが、断定するにはまだ「データ収集」が足りない。その意味で、次のチェコ戦に注目したい。


本田圭佑や岡崎はいつものメンバーであれば戦術理解がなくても戦えたと言いたいのか。岡崎の何をやっているかわからずアジアカップを勝てたというのは驚きだ。サッカーについて理解ができていない状態でプレーすることは可能だが、ペルー戦では限界を露呈したと言っていいだろう。彼はドイツでもゴールをあげたがフィットするのに時間がかかった。本田圭佑もクラブでは絶対的なレギュラーではなくなっている。ピッチ上で行われていることを理解できず、ボールだけのプレーになっていては話にならない。ザッケローニも苦労するに違いない。

遠藤に代わるレジスタは早急に解決しなければならない問題だ。長谷部はインクルソーレタイプで、細貝も同じ。司令塔となる遠藤の代わりはいないのだ。もちろんJリーグで経験を積んでいる選手は多いが中村憲剛藤本も前目でプレーすることを好む。遠藤も肝炎の影響で運動量は落ちたが、それでもエリアをカバーしてゲームをコントロールできる。代役の育成はしっかりやらなければ万が一の事態に対応できなくなるだろう。

2 件のコメント:

どらぐら さんのコメント...

3-4-3のテストと新戦力の発掘を同時に行おうとした結果、試合は消化不良に終わりましたね。
テストマッチですから、課題が見つかった方が良いのかもしれませんが。
チェコ戦までにどこまで修正できるか、注目です。

ペルーはコパ・アメリカ直前ということもあってか、モチベーションが高く、最後まで日本を苦しめましたね。

kiri220 さんのコメント...

>どらぐらさん

テストマッチですから、勝敗は別として課題が見つかったほうがいいのですが。
機能しなかった3-4-3を再びチェコ戦で使うみたいですし、1回ではわからないのかなというところですね。
中盤をダイヤモンド型にするのか、それとも別の方法なのか。

ペルーは主力級が何人かいましたが、動きがよくて日本に勝つために攻めてくれましたからね。
一方の日本はちょっと戸惑い気味でしたね。