2011年6月8日水曜日

ザッケローニは3-4-3に自信を持っているが

International Friendly Match Kirin Cup 2011 Matchday 3 Japan 0-0 Czech Republic @ International Stadium Yokohama

ザッケローニ監督「3-4-3は必要なときまでとっておく」 (1/2)
キリンカップ2011 チェコ戦後会見
(スポーツナビ)


今日は日本が勝利に近づこうとチャレンジしたゲームだった。チェコに比べてゴールチャンスも多かったし、相手よりもチャンスを作っていたと思っている。コンビネーションのところで早い連係、遅い連係とあったが、勝とうという意識が前面に出ていたと思う。選手たちの出来にも非常に満足しているし、期待以上の出来だったと思っている。相手の素晴らしいGK(チェフ)を称賛しないといけない。あくまでもこのシステムはバリエーションの1つだと話してきた。まだまだ始めたばかりだが、良くなっていくと思う。ペルー戦に比べれば、かなり良くなった。この数日間の練習だけでこれだけできるというのは、なかなかたやすいことではないと思う。

――3-4-3で2試合をやったが、サイドは止められて中央にチャンスが多かったと思う。どう評価するか?(大住良之/フリーランス)

サイド攻撃の際にはスピードが遅く、中央ではスピードに乗ったプレーができていたと思う。今日の試合はバイタルエリアとサイドのスペースを狙っていたが、チェコにサイドをケアされたため、(その分)中にスペースがあった。それと、FWとサイドのMFの選手が下がってうちの攻撃に対応してきたので、そういったところでケアされていた。その代わり、相手の攻撃的な選手を2人消すことができたと思う。特に、伊野波と吉田はビルドアップの際に積極的に参加してくれた。


3-4-3で引き続きチェコ戦を戦ったわけだが、本田圭佑がプレーエリアを理解しておらず、中央に入りすぎてために3ラインの3-5-2になる場面が再三見られた。前半はサイドに張ることが多かった彼だが、後半はほぼ中央セントラルMFのポジションでプレー。ザッケローニの新システムのテストは台無しになった。

本田圭佑はシステムなんてどうでもいいと豪語していた選手で、おそらくシステム論に関してはほとんど理解していない。強豪国に対抗するために弱点を埋め、アタッキングのスタイルをシンプルにするために編み出されたシステムをどうでもいい、好きなポジションでプレーするとなれば、中村俊輔が左サイドに大きな穴をつくった岡田監督時代に逆戻りしかねない。


――ペルー戦のときから「引き出しを増やしたい」と語っていだが、3-4-3はほかのシステムと比べてどういうメリットがあるのか。また、どういう場合で使うのが有効と考えているのか?

システムの利点については、ほかのシステムと同様、うまく理解して活用しないといけない。それができたときは、バイタルエリアかサイドのところで1人がフリーになれるという利点がある。また、タイミングについては、4-2-3-1はまあまあできてきていると感じているが、日本の選手たちの特徴を見て、サイドの選手のスピードと持久力を兼ね備えた選手が豊富であること、FWに関してもスピードのある選手が豊富であることを考えて、このシステムが合っていると思っている。

ただし、現時点ではあくまでもオプションのシステムだ。とはいえ、同じシステムでずっとやっていると相手も研究してくるし、同じことばかりでは成長にはつながらない。この2試合で3-4-3を試すことで、それなりの成長を見せられた。これはまた、必要なときまでとっておく。

――攻撃が練習のパターンにとらわれていたように思うが、ハーフタイムでどう修正したのか。それと、日本のメンタリティーのネガティブな部分として、言われたことしかできないと言われているが、あなたはそれを感じたか?(田村修一/フリーランス)

わたしは日本人の特徴に満足している。わたし自身、今日のシステムをよく理解しているつもりだが、数日でここまでできていることは信じられない。こうしたトライをする決断をしたのも、そうした日本人の素晴らしい特徴があればこそだった。ほかの国のほかの選手だったら、今日のような結果は出なかったと思う。ここ数日、選手たちには詰め込みすぎるくらいに情報を与えた。スタートポジションから最後のイメージまで、どうやってたどり着くのか、具体的に話をした。

試合前に選手には、「ここ数日で言ったことを全部やろうとは思うな。スタートポジションのところと、最後のフィニッシュのところだけイメージを持って、そのアプローチに関しては特に固執しないように」と伝えた。選手の中には、練習でやろうとしたことを実践しようとしていた選手もいたので、考えすぎていた部分でプレースピードを遅めてしまったかもしれない。後半になってから、考えすぎの部分もメンタル面でフリーになって、できるようになったと思う。

個人的には、前半の出来も悪くなかったと思う。前半は緊張もあるし、やろうという気負いもあったと思う。繰り返すが、選手たちの出来には満足しているし、いい意味でのサプライズがあった。当然スピードは大切で、数日の練習ではこれくらいかとも思う。攻撃面でいいコンビネーションはできていたと思うが、最後のところでトラップミスがあったりした。


ザッケローニはシステムを変更して中盤をダイヤモンド型にする3-3-1-3にした方がいいのではないか。あるいは3-3-3-1に。数年前には究極のシステムと呼ばれた攻撃的なシステムだ。ウイングとして振る舞う両ワイドが相手のフルバックの上がりを抑え、ウイングバックがサポートする。アンカーが最終ラインに下がれば4バックとして対応できる。そして何より、中央でプレーしたがる本田圭佑をトレクァレティスタとして使うことができる。

ザッケローニは攻守分業の考え方ではなく、最終ラインからもビルドアップを求めているようだが、吉田、伊野波は一定部分できていた。ただし、アンカーは守備力も展開力も高い選手をおかなければならず、遠藤では守備力に不満が残る。長谷部には展開力が足らず、インクルソーレタイプで家長も同じ。遠藤の後継者はきっちり育成しなければならないだろう。


――3-4-3は攻撃的なオプションということだが、90分やってみてチャンスを作れなかった。どういう意味で満足しているのか?

結果とプレー内容を分けて考えることができると思う。個人的には、今日のようなフレンドリーマッチでは内容を重視する。わたしは勝ちたくなかったわけではない。実際、われわれはシュートを11本打っているし、最後の正確性(を欠いたこと)と相手GKの素晴らしさに阻まれたが、11本という数は少なくないと思う。今日のようなフィジカルが強いディフェンスラインに対して、そこまではできないと思う。シュートを11本打っているし、最後のコントロールミスやシュートまで至らないものも含めれば、17か18くらいのチャンスがあった。ただ繰り返すが、わたし自身も勝ちたかった。それよりも、選手たちが、そしてチームが前の試合以上に成長したことに喜びを感じている。

――後半、本田がタッチライン上ではなく内側にポジションをとっているように見えたが、本田の判断か、監督の指示か?(浅野賀一/『フットボリスタ』)

わたしと本田の間で決めた。彼は頭がいい選手なので、サイドでなく中にスペースがあったので、自分がトップ下のところに入りながら、岡崎を2トップの一角のところに押し出した。また、右サイドからバイタルエリアに入ると、彼は左足に素晴らしいものを持っているので、そこで前を向いたときにチャンスも生まれる。

ただ、チェコの左右のMFとFWが下がって対応していたので、そこをきちんと把握して、真ん中にスペースができると。サイドのところではめられているときに縦にボールを入れるには、ある程度キープ力のある選手にボールを入れないといけない。その場合、本田はうってつけの選手だった。本田の特徴は90分間消えないことだ。サイドに張るだけでなく、中に入る判断は間違いではない。手元にデータはないが、おそらく本田が今日一番ボールを触ったのではないか。


本田圭佑がウイングから中に入ったのはザッケローニの指示だったとのことだが、それなら2トップにするのではなく、長谷部か遠藤を外して、右サイドのウイングに選手を入れるべきだった。内田1枚だけの右サイドは弱点となり、攻められれば日本は混乱を起こしていたはずだ。チェコのアタックが日本の左サイドに特化していたことで、左サイドに選手を厚くした日本は事なきをえたが、両サイドをきっちり使うチームなら日本は防戦一方になっていた。岡田監督時代の不調は中村俊輔がプレーエリアを守れなかったことにあり、同じことを繰り返しているように見えてならない。

ザッケローニが許可をしたというなら、なぜウイングをおかなかったのか。そして、本田圭佑の押しに負けたのなら、ザッケローニが監督である必要はないのではないか。


――吉田と伊野波について、あのポジションにどういう資質を求めているか。また、今野をストッパーで使うことは考えていないのか?(後藤健生/フリーランス)

左右の選手に求められるのは、やはりスピード、足元の技術があること、ビルドアップができること、空中戦の強さだ。今野は真ん中でうまくやっているように、(3バックの)左右に入ってもできると思う。彼は非常にユーティリティーな選手なので、今日やった真ん中、左右、内田がやったところ、長谷部がやったところもできるので、個人的に彼のことを高く評価している。

――ペルー戦に比べて良くなったということだが、具体的に何がどう良くなったのか教えてほしい(湯浅健二/フリーランス)

ペルー戦では、ほとんどいいところが出なかったが、2日間の練習だから想定内だった。良くなった部分としては、コンパクトになって、縦への意識が高まったこと。吉田と伊野波が岡崎や本田や李にボールを入れた回数を見ると、良くなったと思う。

日本人は守備もできるし、ビルドアップも参加できる。すべての選手にそういった資質を要求したい。また、内田と長友のポジションの人間が、ペルー戦ではオフ・ザ・ボールの動きというか、スペースに走り込むことができなかったが、今日はそれができていた。あとはクロスをもう少し入れてほしかったが、相手の左右のサイドの選手がかなり戻ってきたこと、上げられたのに上げなかったこと、この2つが原因だったと思っている。それも相手のDFの高さを考えると、致し方ないかなとも思っている。ペルー戦に比べて、バイタルエリアに多くのボールが入っていた。ペルー戦では縦への意識が少なく、横パスに割く時間が長かった。


吉田と内田、伊野波と長友のポジショニングは今ひとつで連携は取れていなかった。いや、攻撃的なシステムといいながら、実は守備的なのに気づいてないことに問題があったか。

縦への意識は確かに高まっていたが、ダイナゴルの動きは多くなかった。バイタルエリアでのコンビネーションも近距離でのパス交換が主で、その他は積極的な仕掛けしかなかった。クロスが入ってもほとんどチャンスがなかったのはチェコの身長もあっただろうが、工夫がなかったことにあるのではないか。

そして、ザッケローニはイタリアでもそうだったように、我の強い選手に迎合しているように見える。本田圭佑の中央でのプレーはそのきっかけではないか。

ビレク監督「日本はクオリティーが高くて強敵だった」
試合後、チェコ代表監督会見
(スポーツナビ)


今日の試合は日本のホームゲームであり、しかも超満員だったので圧倒的に日本に有利な雰囲気だった。かなり大変な試合になることを予想していたが、結果としてペルー戦よりもうまく試合を運べたので満足している。日本はクオリティーが高く、かなり強敵だったので、互角に戦えたのは喜ぶべきことだと思う。

――ロシツキーやプラシルをはじめ主力がいない中で、今回は新しい選手を試すことができたが、次のスコットランド戦に向けてどれだけ収穫があったか?

確かに、ロシツキーやプラシルら有力な選手がいないのは心配だった。だが、今回欠場した選手たちも、今回出ていた選手たちも(試合がある)秋には力をつけているだろう。初めて戦った若手もよく働いていたので満足している。

――10番の選手(コラージ)をペルー戦ではオフェンシブなポジションで使っていたが、今日はディフェンシブだった。これは日本対策だったのか? また3-4-3システムについてどういった対策を考えていたか?(田村修一/フリーランス)

コラージはオフェンシブな選手だが、日本(の戦い)を見て中盤に下げた方がいいと判断した。プラン通りうまくいったと思っている。日本が3-4-3にすることは知っていたが、特に具体的な準備をしていたわけではない。ただ、選手が隅(タッチライン際)に行かないように、必ず組織で行くように、コンビネーションを考えながらチャンスを狙うようにしていた。その意味ではうまくいっていたと思う。

――日本のクオリティーは高いということだが、具体的にどのあたりが高いと考えているか?(湯浅健二/フリーランス)

いくつかある。コンビネーションの良さ、スピード感、そして本田のように創造性というか、作戦を変えて動いていく機敏な選手がいること。日本はアジアカップで優勝しているということで力があることは分かっていたが、今日の試合内容を見ても、これからもっと伸びていく手ごわい相手だと思った。


チェコは慎重に試合を運んでいた。アタックは右サイド偏重で、左サイドのカドレツにまかせっきり。効果的なクロスは上がらず、フェニンも突破をみせることはなかった。ともに決定機が少ないゲームだったが、チェコは決定機といえる決定機は0。経験を積むためにピッチに送り出したのではないかともいえる選手起用だったのではないか。

日本がパスを回せたのもチェコが引き気味でスペースを与えていたからで、その意味では3-4-3は実質機能していない。プレスをかけられたときに、どうなるかはまったくの未知数で、ペルー戦で機能しなかったほうが本当なのではないか。

チェコは負けなかったことで自信を持った可能性はある。日本は崩しきれなかったことを課題にすべきだろう。

「窮屈なサッカー」からの脱却 (1/2)
日本代表 0-0 チェコ代表
(スポーツナビ)


「2004年と今回とではまったく状況が違う。当時はユーロ(欧州選手権)に向けた練習試合のような感じだったので、試合に関する心意気が両チームで違っていた。ほかにも、さまざまな理由があって負けてしまったが、当時の悔しさはよく覚えている」

チェコの守護神、ペトル・チェフは、7年前の屈辱をどうやら忘れていなかったようだ。日本とチェコとの過去の対戦は、04年4月28日にプラハで行われた親善試合にまでさかのぼる。当時のFIFA(国際サッカー連盟)ランキングは、チェコが9位、日本は26位。この当時のチェコはベスト10圏内の常連で、6月にポルトガルで開催されるユーロでも優勝候補の一角に数えられていた。メンバーもまた豪華だった。前年にバロンドール(欧州最優秀選手=現FIFAバロンドール)を獲得したネドベドを筆頭に、ポボルスキー、ロシツキー、スミチェル、ヤンクロフスキといったスター選手や名手がめじろ押し。当時の日本にとり、チェコはランキング以上に仰ぎ見る存在だったのである。

ところが日本は、久保竜彦が前半に決めた決勝ゴールにより、ベストメンバーのチェコにアウエーで勝利してしまう。この時、ゴールマウスを守っていたのが、当時21歳のチェフ(前半のみで交代)。のちにチェコ代表とチェルシーの守護神となる希代のGKにしてみれば、日本というよく分からない相手にゴールを奪われ、あまつさえ敗れてしまったことに、ことさら屈辱感を覚えたことだろう。

一方の日本にとっても、この勝利は大金星以上の価値を有するものであった。当時、ジーコ監督率いる日本代表は、ワールドカップ(W杯)予選で危なっかしい試合を繰り返しており、一部のファンがジーコ解任を要求するデモを敢行する事態にまで発展していた。しかし、このチェコ戦の勝利によって「解任」の2文字は、急速に影を潜めることとなる。チェコ戦の3日後に、都内で開催されることになっていた反対派の抗議集会も、この結果を受けて延期を余儀なくされた。その後の日本が、イングランドとのアウエー戦に善戦(1-1)、さらに中国で開催されたアジアカップで優勝したことは、周知のとおり。こうして見ると、7年前のチェコ戦での勝利は、ジーコ政権のまさにターニングポイントであったことが理解できよう。


この試合は、直後に予定されていたアイスホッケーの試合の影響で90分行われなかったはずだ。88分だか89分だかで打ち切られた記憶がある。ジーコ解任の流れの中で、チェコに勝利。ヨーロッパ遠征で好成績を残したことでジーコは首の皮一枚繋がり、そしてW杯ドイツ大会での惨敗に繋がっていく。日本は崩壊の直前に輝きを取り戻す。その意味でもターニングポイントだった。


もちろん、当時と今では状況はまるで異なる。FIFAランキングでは、今や日本の方が上だし(日本14位、チェコ32位)、ザッケローニに対するファンの評価も現状では好意的なものが大半である。ただし、このチェコ戦の結果と内容次第では、世論がネガティブな方向に転じる可能性は十分にあり得る話だ。

仮に前回のペルー戦に続いて、またしても3-4-3システムが機能不全に陥り、現体制になって初めて敗れてしまったならば、ザッケローニは「システムに拘泥する頑迷な指揮官」というレッテルを貼られてしまうかもしれない。やがて疑心はさらなる疑心を呼び、「なぜ、うまくいっていたシステムを崩すのか?」「イタリアでホサれていたのも、システムのいじりすぎが原因なのでは?」「本当にザッケローニに代表を託してよいのか?」という議論に発展するかもしれない。コパ・アメリカ(南米選手権)の辞退により、強化日程のバッファが失われてしまった今、ファンの心理にも余裕がなくなりつつある。不安が一気に噴出する契機は、常に歓喜と背中合わせとなっているのだ。

もちろん、ザッケローニが信念をもって新システム導入に取り組んでいることについては、論をまたないだろう。それは、チェコ戦の前日会見での発言からも明らかだ。

「あくまでAプランは、これまでやってきた4-2-3-1。このシステムについては、まあまあよくできている。それに加えて、Bプランの3-4-3を練習した。W杯予選では基本的に4-2-3-1でいくことになると思う」
「日本人の特徴としてユーティリティー性が挙げられるだろうし、それに加えて素晴らしい学習能力も持っている。長いスパンで彼らを見た場合、(複数のシステムを使えるようになれば)素晴らしくなると思う」

その一方で、理想を実現させるためには、いつまでも足踏みすることは許されない。最低限の結果を担保としながら、まだ試していない選手や組み合わせについて、さらなるデータ収集を行いたいところだろう。結局、この日のスターティングイレブンは、以下の通りになった(システムは3-4-3)。GK川島永嗣。DFは右から吉田麻也、今野泰幸、伊野波雅彦。MFは内田篤人、長谷部誠、遠藤保仁、長友佑都。FWは本田圭佑、李忠成、岡崎慎司。これまでセンターFWで起用されていた前田遼一はかかとに炎症があり、この日はベンチ。アジアカップ決勝で劇的なボレーシュートを決めた李が、うれしい代表初スタメンとなった。


通常プランAからプランBに移行する場合、攻撃的あるいは守備的にシフトするのが普通だ。4-2-3-1がベースなら4-2-1-3なり4-4-1-1にするほうが選手は理解しやすい。どれも亜流であり、いつでも元に戻すことができるからだ。3ラインの3-4-3は両ウイングが高い位置で張らなければプレーエリアが崩れてしまい、さらに守備の局面ではウイングバックまたはアンカーの動きで4バックに戻す必要がある。意識してやるのは相当に頭を使う作業で練習だけでは上手くいかない。チェコ戦での日本は長友、内田ともに高い位置でプレーし、遠藤、長谷部も攻撃に意識をおいていた。本田圭佑は右ウイングのポジションを放棄していた。プランBは機能せず、機能したのは3-5-2という中央に3MFをおく守備偏重の戦いかただった。


さて、この日の日本の戦いぶりを俯瞰(ふかん)的に見るならば、ペルー戦よりも連係はできていたし、ボールも支配していたものの、何とも「窮屈なサッカー」に終始していた印象はぬぐえなかった。換言するなら、選手1人ひとりが「3-4-3システム」を意識するあまり、本来持っていたはずの伸びやかさや柔軟性、さらには意外性が影を潜める結果となってしまった。もっとも、この試合を「新システムのレッスン」と割り切るなら、それも致し方ないのかもしれない。

序盤の日本はペルー戦の反省から、右の内田と左の長友が、意識的に高い位置を保っていた。対するチェコは、サイドにスペースを与えない策に出る。チェコのシステムは4-5-1。チェコのビレク監督は「タッチライン際に(単独で)行かないで、必ず組織で行くように」選手に指示を出していたという。長身のチェコの選手に、組織でサイドをふさがれてしまったのでは、内田にしろ長友にしろ単独での突破は難しいし、ましてやクロスを供給するのは至難の業である。逆に、チェコがサイドをケアしていた分、中央にスペースが生まれたため、前半の日本のチャンスもここから生まれた。12分、本田のパスを受けた長谷部がドリブルからシュートを放ったシーン。そしてチェフを慌てさせた37分の遠藤のFKも、突破を図ろうとした岡崎が倒されて得たものだった。

後半もザッケローニは3-4-3の堅持を選択。ペルー戦の時のように、選手を入れ替えてシステムを変更することはなかった。だが、相変わらず両サイドにスペースはない。やがて個々の選手の間で、セオリーをアレンジするかのような動きが見られるようになる。具体的には、本田の中央への積極的な関与であり、ストッパーの伊野波や吉田によるビルドアップと攻撃参加である。後半7分のショートコーナーから、本田と李が折り返し、最後は吉田が頭で合わせたビッグチャンス(シュートは枠外)も、そうしたアレンジの成果であった。

日本ベンチはその後、後半19分に遠藤と伊野波を下げて、家長昭博と槙野智章を投入するも、システムは依然として変わらず。しばらくこう着した状態が続いたが、32分には久々にスタジアムを大いに沸かせるシーンが訪れる。本田の山なりのクロスに、岡崎が2人のマーカーを振り切ってヘディングシュート。いったんはGKチェフが防ぐも、セカンドボールを李が左足で押し込む。一瞬、決まったかと思ったが、再びチェフが左手を伸ばしてボールをかき出し、相手DFにクリアされてしまう。この日の李は、再三にわたって裏に抜ける鋭い飛び出しを見せていたが、なかなかパスの出し手との呼吸が合わず、千載一遇のチャンスもチェフの好守に阻まれてしまった。結局、試合はスコアレスドローのまま終了。3試合とも0-0で終わったため、今回のキリンカップは大会史上初となる、3チーム優勝という意外な形で幕を下ろすこととなった。


窮屈だったかと言われると窮屈なプレーではあった。ポジションで違和感を持っていなかったのは遠藤と長谷部、岡崎だけだったのではないか。李忠成はふらふらしていてポジショニングが定まらなかった。岡崎との2トップとなった後半はしっかりしていたが。

つまり、適性をみるあまり選手をピースとして当てはめるのに失敗していたのではないか。

本田圭佑はサイドに適性はない。プレーエリアの意識がない以上、中央にポジションがなければ無理だろう。中央からサイドに開くのは得意だが、サイドで窮屈にプレーする選手では使えないのだ。

試合終了直後、キャプテンの長谷部はドイツでプレーするチェコの選手たちと笑顔で会話し、長友はチェコの選手からユニホーム交換をせがまれていた。いずれも7年前の対戦では、およそ考えられなかった光景である。ヨーロッパとの彼我の差というものは、決してFIFAランキングだけで推し量れるものではない。ただ、近年のチェコがいささか凋落(ちょうらく)傾向にあり、加えて今回のメンバーが若手選手主体だったとはいえ、それでも日本の選手たちの鷹揚(おうよう)とした態度を見ていると、あらためて隔世の感を覚えずにはいられない。もっとも、この日の試合内容については、多くの選手が決して納得していなかったようだ。

「本番でも3-4-3で勝負するのかといったら、絶対的な確信があるわけではない。4-2-3-1のやり方には、ある程度の自信を持っているので、こういうオプションにトライしても、戻れるシステムがあるという意味では強みはある。ただ、どうするかは監督しか分からないです」(長谷部)

試合後のキャプテンの言葉は、この日プレーしたすべての選手の気持ちを代弁しているようにも思える。確かに負けはしなかったし、ペルー戦と比べれば進歩も感じられた。シュート数でも(11:6)、ボールポゼッションでも(63.2%:36.8%)相手を大きく上回ることができた。しかし、一方でパスミスは頻発していたし、サイドでの起点がなかなか作れなかったし、当然の帰結として3-4-3システムの強みを生かすこともかなわなかった。いくら「ペルー戦より良かった」と言っても、選手にとっては単なる気休めにしか感じられなかったことだろう。

キリンカップの2試合を、あえて「3-4-3システムのテストの場」としたザッケローニの判断については、個人的にはある程度ポジティブにとらえている。システムのみならず、新しい選手を試すこともできたので、今後のオプションは確実に増えたはずだ。ただ惜しむらくは、3-4-3の有効性というものが、この2試合でほとんど感じられなかったことである。ザッケローニ自身は、このシステムはあくまで「プランB」であると明言した上で、プランAは4-2-3-1であり、プランBは「必要なときまでとっておく」と語っている。ペルー戦ではプランBからAへのシフトチェンジはあったが、これから始まるW杯予選で、逆のパターンは果たしてあるのだろうか。あるとすれば、それはどのようなシチュエーションなのか。今はまだ、具体的にイメージすることは難しい。

現時点での個人的な印象だが、ザッケローニは「日本代表かくあるべし!」という理想主義者でもなければ、「3-4-3こそが素晴らしい!」というシステム至上主義者でもなく、むしろイタリア人らしい実利主義の指揮官だと思っている。少なくとも、このキリンカップの2試合だけで、この人の資質を語り尽くすべきではないだろう。ゆえに、まだしばらくは、指揮官・ザッケローニの動向をフラットな視線で見守りたい。そのためには、まず私たち自身が、数字の並びに拘泥する習慣をあらためるべきだと思う。数字ありきのサッカーは、プレーする側にも見る側にも、結局は「窮屈なサッカー」を強いているのではないか。「窮屈なサッカー」から、いかに脱却すべきか――それこそが、来るべきW杯予選に向けた、日本サッカー界の重要なテーマなのだと思う。


プランBの3-4-3が使える状態にないことには賛成だ。まだまだ熟成する必要があるし、適性がある選手を見極める必要がある。数字をみるだけではもちろんダメだが、システムはどうでもいいという意見ではダメだ。システムを理解し、そして、実行できる選手ではなければお話にならない。

ザッケローニは機能するか機能しないかで見たはずで、機能したと見たならこのシステムをW杯予選でもテストする可能性はある。

チームの掌握は監督の仕事であるが、日本はきちんとマッチレポートを出して、課題を話し合う必要があるだろう。まったく出番のなかった選手に関しても必要ならテストすべきだった。無得点におわった理由は決定力なのか、それとも、采配なのか。しっかりと確かめて欲しい。

2 件のコメント:

どらぐら さんのコメント...

3-4-3を試したキリンカップの2試合でしたが、収穫はさほどありませんでしたね。
チェコ戦は現状のベストメンバーを3-4-3のシステムに組み込んでみましたが、ご指摘のように本田が中央でプレーすることが多くなり、たとえザックの指示であったとしても、本来の3-4-3ではなくなってしまったように感じました。

仮に今後も3-4-3を続けるなら、いっそのこと本田をセンターフォワードとして起用した方がいいのでは。

kiri220 さんのコメント...

>どらぐらさん

本田圭佑を1トップで起用したらローマやバルセロナのようなゼロトップシステムになるでしょうね。

過去にサイドが高くて真ん中が凹むシステムはいろんなクラブが実践して、結果を残していますし。
やってみて面白いかもしれませんね。

3-4-3が3-5-2になることが多くなり、システムのプランBではないなと思っていました。
4-2-3-1のほうがプレーしやすいのでしょうね。