2011年8月11日木曜日

日韓戦を終えて、両者悲喜こもごも

International Friendly Match Kirin Challenge Cup 2011 Japan 3-0 Korea Republic @ Sapporo Dome
Japan:Shinji Kagawa 35,55,Keisuke Honda 53

ザッケローニ監督「香川はアジア杯から非常に成長している」
キリンチャレンジカップ2011 韓国戦後会見
(スポーツナビ)

フレンドリーマッチとはいえ、これだけ明らかな結果が出たことは満足しているし、こうした結果が出た理由というのは、チームが試合開始から集中力を保ち、自分たちがやるべきことをピッチ上で表現できたからだと思う。特に前半、向こうの良いところを抑えることができたのは良かった。ボールを動かしながら相手の的(まと)を絞らせず、相手の(ディフェンスラインの)裏に飛び出していくというところが非常に良かったと思う。この結果は非常に重要だと思っている。韓国については、わたしも非常にリスペクトしているが、これだけ技術もフィジカルもあるチームに勝てたことは評価したい。今晩の試合を見ても分かるように、2つの代表チームは世界的に見ても成長を続けていると見てとれたのではないだろうか。

――6月の試合よりも選手が伸び伸びしていた。慣れたシステムだったことも影響していたと思うが、戦術的にテーマにしていたことと、それについての手応えは?

試合前に選手たちに言ったが、システムは二の次で、どんなシステムであっても11人で守って11人で攻めるというのが日本のサッカーのいいところなんだ、ということは伝えた。当然、どのチームにも個性はあるが、わたしの念頭にあるのが日本人選手の特徴を最大限に生かせるシステムを採用していくことだ。選手たちにはイニシアチブを取って、自分たちで仕掛けるように、ゲームを支配するようにと言ったのだが、韓国は予想した通り引いて守ってカウンターという形を狙ってきた。それでも前半は、なかなかスペースが見つからないところでも、非常にうまくプレーしてくれたと思う。

――前半20分くらいまで左サイドが不安定だったが、監督は慌てる様子はなかった。あの時、どんなことを考えていたのか?(大住良之/フリーランス)

確かに開始直後、香川と駒野の距離が長いと思った。韓国の右サイドが攻撃が得意であることは想定内だった。しかし、時間の経過とともに香川と駒野の距離がだんだん合ってきて、香川も非常に犠牲心を持ってチームに貢献して守備でも頑張ってくれた。駒野もオーバーラップをすることで、攻めながら守ることをやってくれた。向こうの22番(チャ・ドゥリ)と13番(ク・ジャチョル)の出来というのも評価しないといけない。彼らは走力もあった。ただ前半開始直後は、うちの左はシャイで、向こうが勇気を持って前に仕掛けるきっかけを与えてしまったと思う。


日本はライバル韓国をホームとはいえ、3-0で破り、力の差を見せつけた。韓国がパク・チソン、イ・ヨンピョの代表引退、イ・チョンヨンが全治9ヶ月の怪我で離脱と世代交代でも過渡期、選手も若手を試したとはいえ、日本にだけは負けないと考える韓国にとっては屈辱の敗戦だったはずだ。

香川のスキルについていけず、パス回しに翻弄され、そして、サイドアタックを簡単に許して失点を重ねた韓国は明らかに日本のサッカーに関してスカウティング不足だった。プレスに飛び込んだところを狙おうとしていた可能性はあるが、イタリア式の指示で守備の基本を叩き込まれている日本に岡田時代のようなミスはなかった。

とはいえ、日本に問題点がなかったかというと課題はあった。サイドアタックの多くを両サイドのフルバックに任せることが多く、岡崎、香川は中央に固まっていた。ゼーマン式のトリデンテと同じで中央に固まっているために、フルバックの負担が非常に大きくなるシステムとなっていた。

後半になり駒野と香川の連携はよくなったが、岡崎は最後まで中央に拘り、清武の投入で内田との連携がよくなった。

この戦法をとるなら、内田と駒野(つまり両サイドのフルバック)は交代の最重点ポイントとなる。もっとも負担がかかるところを代えるのは当然で、しかもひとりの走行距離が増えたからといって勝敗とは関係ないのがサッカー。いくら疲れ知らずであっても、フルバックに負担がかかりすぎるのはリスキーではないか。

――香川について、復帰戦でこれだけやれると思ったか? また長距離移動もある中、あえて今回、呼んだ理由は何だったか?

香川については、昨シーズン終了時からプレーできる状態にあったと思うが、しっかり休んでドルトムントのプレシーズンキャンプにしっかり参加して、リーグの開幕戦も非常に活躍したということで、しっかり準備ができていることに疑いの余地はないと感じた。アジアカップから比べると、非常に成長しているという印象を受けた。

――日韓戦という重みがある試合に、若い清武を早い時間帯で投入し、素晴らしい活躍をした。その起用法と彼のプレーについての評価は?

わたしのテクニカルスタッフと協会のスタッフがみんなで手分けして、毎週末のJリーグをすべて把握している。その中でパーソナリティーを持って、継続してクオリティーを出す選手を代表に選ぶのは当然のことだと思う。こういった流れの中でやってくれたのは非常にうれしい。代表の門戸はすべての選手に開かれているし、海外組、Jリーグ組にかかわらず、みんなにチャンスがある。

――残り15分くらいに決定的な場面を相手に与えてしまった。それは日本の中盤のコアとしてのボランチ2人(遠藤と長谷部)が交代したからだと思うが、それについてどう考えるか?(湯浅健二/フリーランス)

わたしとしては、そのことよりも前線の選手が疲労して、なかなか(ボールを)キープできず、ボランチの選手に対して(プレーの)選択肢を与えられなかったことが大きいと思う。本田、香川、李が顔を出す機会が減ってしまったことが、そうしたことにつながったのではないか。また韓国もやり方を変えてきて、中盤を追い越してパワープレーで、大きなセンターFWに(ボールを)当ててくるようなやり方をしてきた。

――ワールドカップ(W杯)・アジア3次予選の前で大事な試合だと言っていたが、今日の勝利での一番の成果と修正点は何か?

この試合については結果も大切だが、内容も重視していた。あと3週間後に始まるW杯予選に向けて、できるだけ本番の雰囲気に慣れてほしかった。本番のリズムでプレーしてほしかった。内容も伴い、結果もついてきたが、明日からは修正点も分析しないといけない。2~3点の修正点を見つけていこうと思う。


とはいえ、このまま熟成を続けていけば、W杯アジア予選2次ラウンドは勝ち抜けるだろう。不安なのはアウェイでの戦いだけだ。政情不安の土地で戦うのはいつでも難しい。

ザッケローニはクラブを率いた経験は豊富だが代表チームを率いた経験はない。イタリアも民族的な背景がある難しいところだが、日本にも少なからずそういう面がある。ザッケローニの戦術面では教師役として問題はなさそうだが、モチベーターとしての能力には疑問がある。その部分をどうスタッフがカバーしていくかは課題となっていくだろう。

チョ・グァンレ監督「日本と韓国に大きな差はない」
試合後、韓国代表監督会見
(スポーツナビ)

たくさんの声援を送ってくれたファンの皆さんにいい試合をお見せできなかったことをお詫び申し上げる。ワールドカップ(W杯)・アジア3次予選を目の前に控えている。その意味で、今日の試合はわたしたちのチームにとって、いい薬になったと思う。試合前に心配していたことが現実となってしまった。海外組の選手たちの試合感覚がやや落ちているのが心配だったのだが、そういった部分が今日の試合にそのまま出てしまった。一番痛手となったのは、DFのキム・ヨングォンが前半で負傷退場してしまい、その後、パク・ウォンジェを投入したのだが、彼も負傷してしまい、さらにパク・チュホを投入したのだが、そのことによってディフェンスラインに混乱をきたしてしまったことだ。今日の問題点をしっかり分析して、W杯アジア3次予選に備えたいと思う。

――ク・ジャチョルを右で使ったが、どう評価するか?(韓国人記者)

本来ならば、本田をイ・チョンヨンにマークさせるつもりだったが、負傷のため招集できなかった。そういったことで中盤にやや乱れが生じ、(相手に)押されてしまった部分があったと思う。その点については、イ・チョンヨンのけがの回復を見ながら、今後どういった選手を起用するか分析したいと思う。

――昨年5月、W杯・南アフリカ大会前に韓日戦があり、2-0で韓国が勝った。試合内容も韓国が圧倒していた。それが1年3カ月で日本に圧倒的な差をつけられてしまった。なぜこうなったのか?(韓国人記者)

わたしが思うに、日本と韓国に大きな差はない。日本は大変素晴らしい試合をしたし、しっかり準備もしてきたと思う。しかし、それほど大きな差があるようには思えない。ご存じと思うが、韓国代表はさまざまな変化があった。負傷のため、あるいはさまざまな事情のため出場できない選手がいて、わたしが本来願っていた通りのチームを作ることができなかった。そういった点で以前に比べて組織力が低下した点は否めないと思う。今回のチームを作るにあたり、大変苦慮した。

まず中央のストッパーだが、本来の選手でなく弱体化したため、安心して任せることができないと判断して、サイドの選手をストッパーとして守備に加わるようトレーニングした。そのことによって中盤の守備を固めようとした。これが機能するはずだったのだが、先に述べた通り、前半の早い時点でキム・ヨングォンが負傷して途中交代してしまった。彼がプレーできなくなったことで、守備にかなりの不安が生じてしまったことが、点差がついてしまった要因だと思う。


韓国にとっては代表を引退したパク・チソン、イ・ヨンピョの穴を埋められなかったのが大きかった。ク・ジャチョル、キ・ソンヨンとタレントはいるが効果的だったのはロングボールを放り込んでの前線頼みの攻撃だけだったことから、韓国の問題は深刻であることがわかる。

本来なら、前線3人に中盤の選手が絡むコンビネーションでゴールを奪うスタイルなのだが、アンカーを務めたキ・ソンヨンが慣れていないこともあり、うまく機能しなかった。キム・ジョンウに任せてキ・ソンヨンとイ・ヨンレのインサイドハーフのほうが機能したのではないか。

いずれにしても最終ラインに怪我人が出て早い時期に交代となったのは残念だった。

――後半、韓国が攻めたが、やり方を変えたのか、それとも日本に原因があったのか。また点が決められなかったことについてどう思うか?(後藤健生/フリーランス)

日本は後半に入って体力がやや落ちてきて、それがスピードの低下につながったのではないか。そこを狙って、交代要員を投入して速いサッカーで流れを変えようと試みた。キャプテンのパク・チュヨンは、しばらくの間、試合に出場していなかったので、ゲーム感覚がかなり落ちていたと思う。そしてキム・シンウクも投入して流れを変えようとしたが、やや力不足だったようだ。今までと違う選手を使って、違う形の試合展開をしようと思ったのだが、ゴールチャンスがいくつかあったにもかかわらず得点できなかった。

――韓国はアウエーに強い印象があり、実際に前半の20~25分くらいまでは日本もカウンターを食らって危ない場面が何度かあった。それがキム・ヨングォンの交代から日本のチャンスが増えたが、それだけこの交代は大きかったのか?(湯浅健二/フリーランス)

必ずしもキム・ヨングォン1人の影響力が強かったとは思わない。だが、先ほども申し上げたが、守備ラインに不安があったので、彼にそこを補う役割をしてもらうつもりだった。そうしたパターンを作って、しっかり用意したにもかかわらず、早い時点で交代になったのが痛かったのは事実だ。その後、投入したパク・ウォンジェも負傷交代してしまった。最終的にパク・チュホを出したが、彼の場合は経験不足もあり、うまく守備ラインが機能しなかったように思う。


チョ・グァンレ監督はよほど悔しかったのだろう。通常の挨拶である日本のプレーを褒めることはなかった。だからといってどういうわけではないが、本気で勝ちに来ていたのは事実で、大変ありがたいことだと思う。

韓国がいろんな手を使ってゴールを奪いにきたことで、日本は経験を積むことができたし、さらに対応策を練る時間も作ることができた。そのことには感謝したい。

韓国がさらに課題を克服してブラジルへの道を順調に進むことを願うが、それよりも日本が強くなることを願って止まない。

清武が輝いた日に思うこと (1/2)
日本代表 3-0 韓国代表
(スポーツナビ)

「日本のMFが強いことは認めるが、それに対する対策というものも十分に立ててきた。そして韓国のMFであるキム・ジョンウ、イ・ヨンレ、キ・ソンヨンは非常に呼吸も合っているし、素晴らしいプレーを見せてくれる選手たちだ。明日の中盤の戦いは決して押されることはないと信じている」

前日会見での韓国代表チョ・グァンレ監督のコメントである。「アジアカップの韓日戦では中盤での戦いで勝負が分かれた。明日はどう予想するか?」という韓国人記者の質問に対して指揮官は、日本のMFの優位性を認めた上で、対策には抜かりがないことを強調している。何気ないやりとりのようにも見えるが、私としては韓国サッカーの変容ぶりが実感できて実に興味深く感じられた。

ザッケローニが日本代表監督に就任して1年も経たないのに、すでにこれが3回目の日韓戦。しかも昨年はワールドカップ(W杯)前の2月と5月にも対戦しており、この2年で実に5回も日韓戦が行われることになる。ただしW杯を挟んで、それ以前の2試合とそれ以後の2試合とでは、韓国のサッカーの方向性に大きな変化が感じられる。それはすなわち、現監督のチョ・グァンレが韓国代表の方向性に大きな変化をもたらしているからにほかならない。従来のフィジカルとスピード、そしてサイドアタック重視から、中盤にタレントを配したパス主体のスタイルへの転換。これにより日韓戦のホットスポットは、サイドやバイタルエリアから中盤へと移行していくことになる。

一方、ザッケローニも日韓両国の力関係について「地理的にも近いし、アジアではトップを走っている国同士。近年では、サッカーでも非常に進化していると思う」と語っている。そしてその証左として、昨年のW杯で両国ともベスト16進出を果たしたことと、ヨーロッパでプレーする選手の増加を挙げている。90年代後半以降、抜きつ抜かれつの関係を続けている両国だが、目指すサッカーの方向性が似てきたという意味でも、日韓戦は間違いなく、新たなステージに突入したと見てよいだろう。とはいえ、いくら世代が変わり、そしてヨーロッパでプレーする選手が増えても、やはり変わらないものはある。それは言うまでもない、「絶対に負けられない」という両者の強い闘争心だ。


韓国との歴史はサッカーだけではなく、古代からの交流と戦争の歴史だ。古代日本には朝鮮系の渡来人が多く入ってきており、政権にも関与している。日本が攻め込んだことも何度もあり、白村江、朝鮮出兵と破れている。朝鮮が攻めてきたこともあり、元寇の先鋒は高句麗だった。そして、朝鮮併合があり、日本と韓国は歴史的にもサッカーでもお互いに負けられない戦いとなっていく。それは征服された側により負けん気が強くなるのは世界のどこの地域でも同じことではあるが。

とはいえ、サッカーは弾が飛び交う戦争ではない。ボールを追いかける知的な戦術ゲームだ。日本と韓国が高いレベルで争うことができるのはすばらしいことだと思う。

札幌ドームで代表戦が開催されるのは、08年8月20日以来、実に3年ぶりのこと。しかも今回は、U-22日本代表の試合とセットで行われるとあって、ドームのスタンドは第1試合の後半にはすでにほぼ満席状態であった。この日のスターティングメンバーは以下の通り。GK川島永嗣。DFは右から内田篤人、吉田麻也、今野泰幸、駒野友一。MFは守備的な位置に長谷部誠と遠藤保仁、攻撃的な位置に岡崎慎司、本田圭佑、香川真司。そして1トップに李忠成。6月のキリンカップで試した3-4-3ではなく、今回は慣れ親しんだ4-2-3-1で臨んだ。試合前、8月4日に34歳で亡くなった元日本代表の松田直樹さんへの黙とうがささげられてから、厳粛な空気の中でキックオフを迎えることとなった。

試合内容については、まずは得点経過を中心に振り返ってみることにしたい。序盤、しっかり守備を固めて鋭いカウンターを繰り出す韓国の攻撃を耐え忍んだ日本は、前半25分を過ぎてから盛り返し、相手陣内で面白いようにパスがつながるようになる。そして35分、遠藤がイ・グノからボールを奪い、中央の李へ。このボールを李がヒールで流し、受けた香川がイ・ジョンスとキ・ソンヨンを巧みなボールコントロールでかわして、技ありのゴールを決める。今年1月のアジアカップ、対カタール戦以来となる香川のスーパーゴールにより、日本が待望の先制点をゲット。1点リードのままハーフタイムを迎える。

日本の攻勢は、後半に入ってからも衰えることはなかった。8分には追加点。そのきっかけを作ったのは、久々のスタメン出場となった駒野であった。前半こそ、ク・ジャチョルとチャ・ドゥリのドリブル突破に苦しめられていたものの、後半は自ら積極的に仕掛けていき、相手DFの股(こ)間を抜いて自らシュート。いったんはGKチョン・ソンリョンがセーブするものの、これを逆サイドで拾った清武弘嗣(前半36分に岡崎に代わって出場)が折り返し、中央で待ち構えていた本田が左足ワンタッチでゴールに流し込む。

さらにその2分後、本田のパスを受けた香川が右の清武にいったん預け、清武からのグラウンダーのラストパスを自ら走り込みながら右足ダイレクトでネットを揺らす。これで3-0。こうなると、もはや日本の勝利は揺るがないだろう。その後、日本が立て続けに主力選手をベンチに下げたこともあり、韓国に何度も押し込まれる展開が続くが、なぜか彼らのシュートはことごとく枠を超えてしまう。終盤は決して感心できる内容ではなかったものの、それでも必死で追いすがるライバルを辛うじていなし、失点ゼロでタイムアップ。終わってみれば3-0の圧倒的なスコアで、ホームでは13年ぶりとなる日韓戦勝利を果たした。


日本のマスコミは3-4-3効果でサイドアタックが生きたと持ち上げているが、システム的にもっとも遠い4-2-3-1と3-4-3で影響が出たとは思えない。日本の選手たちは単純に慣れ親しんだシステムに戻ってパスの距離、選手間の距離を気持ちよく楽しんだのではないか。

気持ちよく楽しむことができれば周りが見えてくる。韓国の穴も見えただろう。そこに香川のようなスペシャルな選手を落とし込めばゴールに繋がるということだろう。

「たくさんの声援を送ってくれたファンの皆さんにいい試合をお見せできなかったことをお詫び申し上げる。W杯アジア3次予選を目の前に控えている。その意味で、今日の試合はわたしたちのチームにとって、いい薬になったと思う」

試合後の会見に臨んだチョ・グァンレ監督。「いい薬になったと思う」という言葉とは裏腹に、いつも以上に焦燥しきった様子であった。無理もない。アウエーの日韓戦に13年ぶりに敗れ、しかも0-3という屈辱的なスコアで日本に敗れたのだから(あとで知ったのだが、日本が韓国に3点差以上で勝利したのは1974年の日韓定期戦以来のこと。何と、57歳のチョ監督が代表デビューを果たす前年の話である)。

では、韓国の指揮官が考える敗因とは何だったのか。会見での発言を聞く限り、以下の3点があったようだ。すなわち(1)当初想定していた選手が負傷やチーム事情により招集できなかったこと。(2)海外組の選手が試合勘を失ってしまっていたこと。(3)センターバックの選手が負傷のため相次いで交代してしまい、ディフェンスラインが混乱したこと。このうち(1)は当初から分かっていたことであり、(2)についてもある程度は想定していたフシが見られる。問題は、まったく予期できなかった(3)であろう。

この日、センターバックに入っていたキム・ヨングォンは、大宮アルディージャに所属するJリーガーであり、韓国代表ではイ・ヨンピョの後継者として左サイドバックでの活躍が期待されていた。しかし、この試合では「守備ラインに不安があったので、そこを補う役割をしてもらう」(チョ監督)べく準備していたところ、前半25分で負傷退場。さらに代わって入ったパク・ウォンジェも、わずか12分のプレーで負傷退場を余儀なくされ、結果としてパク・チュホを投入したが「経験不足もあり、うまく守備ラインが機能しなかった」(同)。そこを日本の攻撃陣に突かれた、ということらしい。

確かに、日本の反撃が始まったのがキム・ヨングォンの不在後であったことを考えれば、チョ監督のコメントもあながち間違っていないとは思う。また、今回招集を見送ったイ・チョンヨン(ボルトン)やチ・ドンウォン(サンダーランド)といった欧州組が合流していれば、さらに手ごわい相手になっていたことは間違いないだろう。だがそれ以前に、イ・ヨンピョやパク・チソンといった02年W杯の「4強戦士」の代表引退の穴を埋められていないことが、何より問題であったようにも思えてならない。

この件についてチョ監督は明言していないが、今年1月のアジアカップ以降、韓国が後継者問題に苦しんでいるのは間違いなさそうだ。もともとスペインのようなパスサッカーを理想としていた同監督が、結局は中盤省略のパワープレーに活路を見いだそうとしていたことからも、今の韓国代表の苦悩を見る思いがする。いずれにせよ、前日会見の言葉通り、中盤での日韓の攻防があまり見られなかったことは、いささか残念ではある。


チョ・グァンレ監督にとって失望の試合となったわけだが、この試合で終わるわけではない。中盤のコンビネーションがうまく機能しなかったのは事実だが、課題ははっきりしている。怖いのは次回対戦するときだろう。手負いの虎は頭を使って用心深くなる。韓国の牙が向かれるのはこれからで、日本は今日の勝利に奢ってはいられない。勝って兜の緒を締めよの格言通り、課題を見つけてさらに発展していく必要がある。

もっとも勝った日本についても、すべてにおいて手放しで喜べなかったことは謙虚に受け止めるべきである。とりわけ、3点差としてからの日本は、集中力の欠如によるパスミスなどで相手に付け入る隙(すき)を与えてしまい、何度となく失点のピンチを招くこととなってしまった。幸い、相手のシュートミスと川島の好判断に救われたものの「いつもの韓国」であれば、かなり際どいゲーム展開になっていたはずだ。

後半の日本がグダグダになってしまった理由としては、個人的には守備的MFの長谷部と遠藤の不在が大きかったように思える。ザッケローニ監督は、後半21分に長谷部に代えて阿部勇樹を、その7分後に遠藤を下げて家長昭博を投入している。おそらく指揮官としては、遠藤不在のシミュレーションとして家長を試したかったのだろう。しかしながら、その試みは失敗だったと言わざるを得ない。阿部と家長のコンビは、お互いの持ち味を出すにはあまりにも急造すぎて、何度となくピンチを招く要因となってしまった。後半40分、細貝萌が香川に代わってピッチに送り出され、家長が右サイドに回されたことを見ても、この試みは失敗に終わったと考えるのが妥当であろう。韓国がイ・ヨンピョやパク・チソンの穴を埋めきれないのと同様、日本もまた「ポスト遠藤」を見いだせずにいることは留意すべきである。

とはいえ、この試合ではもちろん収穫もあった。香川の代表での復活もそうだし、今年になって初招集された駒野が、長友佑都の不在を補って余りある活躍を見せてくれたのも好材料である。だが何と言っても、この日の一番の発見は清武がA代表でも十分にその才能を発揮できたことだと思う。今回のメンバーでは最年少である21歳の若者が、ホームでの日韓戦という極めてテンションの高い試合で、初キャップながら見事に2アシストを披露してみせたのである。清武についてのザッケローニの認識は「サイドの選手」であり、現在のところ遠藤の後継者であるとは言い難い。それでも、清武の評価について尋ねられたザッケローニが「非常にうれしい」と語っていたことからも、及第点以上を与えられたと見てよいだろう。ここにまた、新たな次代のヒーローが誕生した。

最後に本稿をしめくくるにあたり、余談めいた話をひとつ。清武のA代表入りが発表された8月4日は、松田さんの早すぎる死が発表された日でもあった。私は残念ながら代表発表会見に出席できなかったのだが、当日のツイッターのタイムラインを見ると、松田さんの死を悼む声と清武の選出に驚く声とが同時に流れていたことに、ある種の宿命を感じてしまった。もちろん、1977年生まれで昨年まで横浜F・マリノス一筋だった松田さんと、一回り年下の89年生まれで大分トリニータの下部組織で育った清武との間に、これといった特筆すべき接点はない。それでも、松田さんが亡くなった直後に、清武のA代表入りが発表され、その彼が「追悼試合」とも言えるゲームで初キャップを刻み、なおかつ大活躍したことに「それでもサッカーは続く」という言葉を思い浮かべたのは、私だけではないと思う。天に召された松田さんは、この日の日韓戦勝利に、果たしてどんな思いを抱いたのであろうか。


日本のセントラルMFとして試されているのは遠藤、長谷部の他、細貝、阿部、家長と続くがインコントリスタタイプの阿部、インクルソーレタイプの細貝は長谷部の代役となれるとしても、レジスタタイプの遠藤の代役として家長はほど遠いできだった。ミスパスが多く、視野が狭い。いざとなれば本田圭佑を下げる手もあるが、本田圭佑はゴールに近い位置でこそ生きる選手だろう。守備をさぼるなどの弊害がでかねない。

問題はザッケローニがどれだけセントラルMFの重要性を認識しているか。遠藤ひとりだけとなれば、後継者問題はかならず俎上にのぼる。選手がいないわけでなないと思うが、経験を積まなければ選手は成長しない。もっとチャンスをあたえるべきではないか。

最後に現役時代一度も韓国に勝っていない松田直樹さんの追悼試合で歴史的大勝となったのはすばらしいことだった。改めて哀悼の意を示したい。

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