Japan:Okazaki 19
アルゼンチン戦後 ザッケローニ監督会見 (1/2)
キリンチャレンジカップ2010(スポーツナビ)
わたしにとって(日本代表監督としての)デビュー戦だったが、結果には満足している。それより選手たちが、この合宿で自分が言ってきたことをどれだけピッチで表現してくれるか見ていたが、特にそこに満足している。アルゼンチンはスペインと一緒で最強のチームだと思っている。非常に強敵ということで、試合のアプローチまでは緊張していた。試合前に選手たちに言ったのは、この試合に勝ちたいのであれば、チーム力で上回るしかない。そういうことを伝えた。それからサポーターの皆さんに感謝したい。本当に12番目の選手としてサポートしてくれた。ありがとうございます。
両チームに決定的なチャンスが生まれたが、日本は2点目、3点目を取るチャンスはあったと思っている。試合開始直後は不安な立ち上がりだったが、時間が経つにつれて自信を持つようになり、自信を持って厳しいシチュエーションにも対応してくれた。特にわれわれのチームはサイドチェンジ、サイドを頻繁に変えることが、攻撃面で相手に的を絞らせないことにつながったと思う。
課題としては、アルゼンチンはやはり経験のある選手が多くて、自分たちが疲れたり困難なシチュエーションに置かれたときに、どうすれば楽にサッカーをできるかということを知っている。それに比べて日本は、経験という意味では劣っている。これからチームを作る上で、そういうところも解決していければと思う。
試合終了間際の時間帯で相手にチャンスを作られたが、やはりわれわれが間延びしたので、大きくスペースを与えてしまったからだと思う。われわれが疲れていないときは、見事にコンパクトにまとまっていて不安はなかった。勝利は非常に大事だが、この勝利によって選手たちがそれぞれの実力を信じて、自信を深めてもらえるようになればいいと思う。われわれの目標はアルゼンチンに勝つことではなく、成長していくことである。次の韓国戦に向けて準備していきたい。
日本代表のターニングポイントとなったのはW杯南アフリカ大会のカメルーン戦の勝利。主力のGKカメニとソングが抜けていたとはいえ、アウェイのW杯での初勝利は自信になったはずだ。迷走していた岡田さんの指揮がかたまり、ノックアウトラウンド進出、クォーターファイナルまであと一歩というところまで手をかけた。新監督になったチームはたいていはリフレッシュしてよくなるものだが、日本代表はザッケローニから貪欲に戦術を吸収しているように見える。ザッケローニは2年で教えることはなくなるとインタビューで答えていたが、このままの成長を続けていけばザックの知識をあっという間に吸収してしまうかもしれない。ドイツ後のひどさとは違い、立て直しではなく、成長という夢を追いかける分、加速がついている。南アフリカで松井や大久保の個人技が通用したのも大きかった。また、ドルトムントで香川が高い評価を受けているのも同じだろう。日本人でもやればできると自信をつけたことでサッカーに対する意識が変わったように思う。
――今日の一番の収穫は何だったか(岩本義弘/フロムワン)
試合前にわたしは「自分たちができること、知っていることをピッチの上で表現してくれ」と(選手に)お願いした。それにプラスして、試合の中でさらにリズムを上げていくこと、また縦に、ゴールに向かう姿勢というのをお願いした。技術面では(指示通りに)ゴールチャンスを作れた。それから精神面では「どんな相手が前にいても、おびえずに行ってほしい」と伝えた。その面では、選手たちはアルゼンチンに対して臆することなくプレーしてくれたと思う。
――1点リードで迎えたハーフタイムでの指示は
まず(日本の)ゴールによってアルゼンチンが前がかりになってきて、ディフェンスでの修正点があったのでそれを伝えたことがひとつ。あとは2点目を取りに行こうということを選手には伝えた。
日本代表から難しいことをやろうという気持ちが消えたことは大きいだろう。無理筋なパスをつなげることはなくなった。アジアでは通用する狭いところを通すパスも世界では通用しない。といって、安全な各駅停車のパスをつなぐわけではなく、きちんとトライアングルを作り、サイドアタックを起点にして攻撃を組み立てていた。また守備でもメッシにはズタズタにされたものの決定的な場面では体を張って守りきった。ディアゴナーレで上手くカバーし、シュートコースを絞ることでGK川島が守りやすかったのも事実。実際、危険な場面は立ちあがりのミスのところだけ集中力が欠けていた。
――実際に試合を指揮してみて、日本の選手の能力的な印象は期待通りだったか(田村修一/フリーランス)
今回の合宿、そして今日の試合を通じて、選手たちへの以前から抱いていた印象が確信に変わった。非常にクオリティーを持った選手が多いが、それに気付いていない選手も多い。自分たちが持っている力に自信を持ってもらい、まだまだ伸びしろがある選手がいるので、2014年のワールドカップを目標としてチームと一緒に成長していってほしいと思う。それから今日の試合は、たくさんある仕事のほんの一部にしかすぎない。われわれが狙っているところは違うし、勝利や結果はついてこないといけないが、長い目でこのチームを見ていく上でこの試合は、結果以上に内容も見ることができて非常に良かったと思う。
――逆にネガティブな面、思惑違いな面はあったか
ノー、ノー、答えはノーだ。それぞれ選手たちが持っている実力を出してくれたので、ネガティブなサプライズはなかった。特に強調したいのは、香川、岡崎、森本、本田(圭)、前線の選手たちが犠牲心を持って、慣れていないポジションを代表のために頑張って守備陣を助けてくれた。プラス、サポーターの力、12番目の選手たちのサポートのおかげで結果がついてきてくれたと思う。
――チームの経験がない分、選手交代でカバーしたと思うが、交代で出た選手の働きについてどう思うか(大住良之/フリーランス)
攻撃で交代で入った選手は非常に良かったと思う。交代については、数人は単純に疲労から、ほかはチームのバランスを考えて投入した。特に中盤でやられているというか、中盤でエネルギーを使っていると気付いたので、バランスを出すために変更を加えた。特にパストーレ、メッシを中盤に入れてきて、相手の中盤でのパスワークが非常に上がったこと、ディ・マリアとラベッシがワイドに開いて、スペースでいいボールを待っていたこと。それをカバーするには、やはり中盤を厚くするしかなかったと思う。
アルゼンチンは前がかりになって攻めてくれたことで、日本はフレンドリーマッチでありながら本気の世界を感じることができた。イグアイン、メッシ、テベス、ラベッシ、ディ・マリアとそろった前線は渋滞を起こし気味だったが、狭い地域を通してくるパスワークはさすがだったし、そこに飛びこむ嗅覚も素晴らしかった。日本代表はアルゼンチンのスピードに反応できたことで自信がついたはずだ。難しいことをしなくても世界を相手に互角に戦えるということを知っただけでも十分な収穫だったのではないか。
個人的にはアルゼンチンに大敗でも仕方がないと思っていた。ザッケローニと中田英寿の対談で中田が言っていたように日本人選手は言われたことはできるが言われないことを自らしようとはしないという言葉が当てはまると考えていたからだ。現実には想像性はあったのだが、監督に求められることが多すぎて頭の中で混乱を起こしていただけとも言える。
ザッケローニは現在のイタリアでは過去の人だが、昨シーズンまでユベントスを率いてカンピオナートを戦ったという経験があり、現場を離れていたわけではない。ユベントスで持論の3-4-3を捨て柔軟に対応し、最後はシンプルに戦うことにしたように、日本代表でもシンプルな指示だけをすることで選手の頭に考える余地を残したとも考えられる。
岡田さんをイタリア第一期とするなら、ザッケローニは第二期。有袋類のように特殊な成長をした日本サッカーが世界に追いつくには過去のヨーロッパのサッカーを復習しながら基礎を学びなおす必要がある。いきなり世界的な監督に学んでも高度過ぎてついていかなかったかもしれないのだ。となると、日本サッカー協会の判断は正しかったとも言える。ザッケローニ招聘の本意がどこにあったのかは公表されない限りわからないのだが。
――終わったあと、ロッカールームで選手たちに何を伝えたか? また今日のシステムと選手は、今後のベースとなるのか、それとも韓国戦では違ったやり方をするのか
ロッカールームに長くいなかったので、触れ合う機会は限られていたが「おめでとう、お疲れさま」と。試合前にわたしがお願いしたことを、できるだけピッチで表現してくれたことについて「ありがとう」という気持ちだ。2つ目の質問だが、いわゆる海外組の選手たちは、やはり非常に能力は高い。ただし忘れてはならないのは、Jリーグから出てきている選手。Jリーグが素晴らしい選手を輩出してくれているという印象を受けた。次の韓国戦は、ある意味で、今日よりも難しくなると思う。明日の午前中に、今日プレーした選手の情報を確認して、それからけがで残念ながら出られなかった本田拓、松井、闘莉王の状況も聞いて、韓国戦についてはこれから練っていきたいと思う。川島、岡崎も筋肉に張りがあるというので、明日の午前中にまとめて状況をチェックしたい。
選手を固めたことで不安が残った南アフリカのことを考えれば公式戦までまだ時間があるこの時期は選手を試していく絶好の機会だろう。アルゼンチンには勝ったが韓国戦も勝たなければならない試合ではない。もちろん勝ったほうがいいのは当たり前だけれども、選手が経験を積むことのほうが大切だ。今日出られなかった選手に機会を与えるのはいいことではないか。ブラジルまでの時間を逆算しているわけではなく、ザックは2年で知っている限りのことを教えるはずだ。彼の持論は3FWという考え方。ゼーマンのシャドーも含めた3FWという考え方は相手からゴールを奪う手段であって目的ではない。選手が理解すれば大きな武器になる。システム変更をするとしても基本は変えず応用ということになるだろう。そうしないと選手が混乱してしまうだろうから。
――チームとして相手を上回るしかない。それから前線のプレスが機能した。このふたつのキーワードについてコメントが欲しい(湯浅健二/フリーランス)
犠牲心はすべてのチームにとってキーワードになると思う。攻撃陣が前の方で頑張れば、中盤とディフェンスを助けることによって、ボールを自分たちの高い位置で奪える。それは攻撃陣にはゴールのチャンスになる。そして、攻撃のパートと守備のパートの助け合いということになる。特にマスチェラーノ、ブルディッソにボールが入ったときに、本田(圭)、香川、岡崎の献身的なプレーがチームを助けたと思う。
――スタメンにW杯のレギュラーが5~6人いたが、この結果を出したことで今後のチームにどのような結果を与えることになるのか
先ほども言ったが、Jリーグが素晴らしい、能力の高い選手を輩出していることを伝えたい。この1カ月、時間の許す限りJリーグを見てきて情報を集めて、いつも試合から戻るときには抱え切れないほどの情報を持って帰ることができた。それを今後も代表に生かしていきたい。最後にJリーグの監督さんたちは、本当に素晴らしい仕事をしてくれていると申し上げたい。
カミカゼと揶揄された日本のFWのチェイシングとアルゼンチンのチェイシングでは違いがあった。それはFWの動きにあわせて中盤が動いていたこと。コレクティブな戦術をとることでチェイシングから全体のプレスが効き、パスワークを大きな武器とするアルゼンチンから何度もパスカットをしてショートカウンターを仕掛けることができた。もちろんアルゼンチンが不調だった、体調不良だったということは考えの外においてであるが。わずか4日間で吸収したとすれば、日本人選手の伸びしろはスポンジのように恐ろしいほど知識と経験を溜め込んでいることになる。見ていて楽しいサッカーというのは全体が連動したサッカーで、アルゼンチン戦ではきちんと機能していた。
試合後、アルゼンチン代表バティスタ監督会見
キリンチャレンジカップ2010(スポーツナビ)
――このような結果になったが、選手たちの取り組みをどう考えるか(大住良之/フリーランス)
今日の結果は、自分としては満足していないが、選手はよく頑張ってくれた。単に結果がついてこなかったということだと思う。おそらく選手は調子が良くなったのではないか。主に疲労によるものだったのではないかと思う。時差が12時間(程度)あることも影響していたし、それによってきちんと休息も取れなかったと思う。そのため今まで通りのプレーを披露することができなかった。また日本は非常に良い対戦相手だったとも言える。とにかく選手たちは一生懸命プレーしてくれたし、すべてをピッチに残してくれたと思う。
――攻撃が単調になったのは日本の守備が良かったからか、それともアルゼンチンの攻撃に問題があったのか(田村修一/フリーランス)
今日はどちらかというと、日本の方が良いチームだったということに尽きると思う。非常に秩序だったプレーをしていた。日本にとって有利だったのは、このチームでみっちり練習してきたのではないかということ。われわれの場合、招集する予定だった選手が何人も負傷で参加できず、そのためチームとしての動きにちぐはぐさというか、調子が出ない部分があったと思う。その中でも、できるだけオフェンシブに頑張ったし、特に最初の15分がそうだった。(それでも)自分たちで決め手となるシチュエーションが作れなかった。それとともに、日本のディフェンスが非常に良かったことも(理由に)挙げられる。そのため、なかなか(前線に)上がれなかった。そのあたりが敗因だったと思う。
――今日のアルゼンチンの選手は何パーセントの出来だったか(アルゼンチン記者)
今日はプレーヤーはいいプレーをしていたと思う。しかしながら日本が非常に良いチームで、われわれよりも優れていたから(相手が)勝った。それから予想外のこととして、試合の流れの中で、カンビアッソやD・ミリートがけがで交代していった。ボラッティもそうだ。当初、自分たちの考えていたスキームというか試合展開ができなかった。それと同時に、日本の選手の技術が高かったことも指摘できる。とにかく今日は、自分たちのいつもの持ち味を出すことができなかった。おそらく、けが人が続出したのは、疲労がたまったことによるものだと思う。しかしながら、日本は本当にいいチームだし、われわれの選手は頑張って、今回は非常にいいプレーを見せてくれていた。結果はついてこなかったが、われわれは満足した気持ちで帰国することができる。
バティスタは長旅の疲れやジェットラグをコンディション不良の原因としてあげながらも敗戦の原因としての言い訳にはしていない。日本がアルゼンチンよりよいプレーをしたためであり、また日本代表の技術が高かったことでアルゼンチンは思った通りのプレーができなかったために、この結果になったと分析している。アルゼンチンにとって日本は与し易い相手であり、過去は6戦全勝。長旅は言い訳にならないくらいの力の差があったはずだ。しかし、今回は勝手が違い、日本の成長によってアルゼンチンは完全に阻まれてしまった。バティスタとしては不本意な戦いであっただろうが、選手は怪我をした選手も含めて高いモチベーションで戦ったし、アルゼンチンが強くなる糧となるのではないか。
――今日の試合、アルゼンチンは通常のように試合をコントロールができなかったことについて。原因は疲れか、それとも相手のプレスか(アルゼンチン記者)
今日はいつものプレーができず、試合を支配する立場にはなれなかった。その前のアイルランド戦やスペイン戦のようなプレーができなかった。原因については、日本のプレスが良かったために、自分たちがエラーしてしまい、さらに疲れもあった。そうした自分たちのエラーから相手に攻め込まれて、このような結果になってしまった。とにかく選手が疲労していたので、思ったようなプレーができなかった。われわれのパスは、正確さに欠けていたとしか言いようがない。20分、25分のところでボラッティを投入(実際には前半45分に途中出場)して、もう少しリズムを変えられると思ったのだが、それでもけが人を含めていろんなシチュエーションが出てしまい、慣れないポジションでプレーする選手が出てしまった。そのため、思っていたような試合展開ができなかった。
――今日敗れてしまったことで、代表監督を続けられなくなるのではないか(アルゼンチン監督)
今日の1試合だけで評価されるとは思わない。試合に負けるときもあれば、勝つときもある。これまでの試合を見て、評価してほしい。自分自身がどう評価されるかということではなく、勝つためにそれぞれの試合に臨んでいる。試合の結果ということであれば、今のところ2試合勝って1試合負けた。このまま続けられないという状況ではないと思う。
独裁者のグロンドーナのことだから日本に破れたということでバティスタを更迭する可能性はある。だが、アルゼンチンの戦い方はマラドーナの指揮よりもはるかに洗練されていたし、攻撃のかたちはきちんとできていた。ミスが多かったのは体調不良と日本のプレスの相乗効果だろう。選手には油断があったのかもしれないが、追いつけなかったことでアルゼンチンでも焦るということがわかったことだけでも日本にとっては大きな収穫だったのではないか。
――準備の中で日本のことも調べたと思うが、今日の日本のプレーに驚きはあったか
日本について、やはり成長というか進化の度合いが著しいことに好感を持っている。この5年間、わたしは日本代表をフォローしてきたが、本当に成長が目覚ましいと思っている。ワールドカップ(W杯)でもそうだし、先日のパラグアイ戦も、そして今日もそうだ。今までと違って、ほかの世界の代表にひけをとらない、均衡した試合ができる。その成長ぶりにに驚かされた。選手については、テクニカルな部分が良かったし、今回のメンバーはW杯に向けた、非常によく準備されたチームという印象を持った。
南アフリカで世界を驚かせた日本代表は、さらに驚愕を世界に発信している。このまま成長をすれば10年間でもっとも成長したチームとして日本代表の名前が記憶されるのではないか。先にも述べたがまだまだ復習の段階なのだ。これから世界に追いつくレベルでここまでできるということは潜在能力の高さと自信ということだろう。ただし、ここで過信してはならない。まだホームでアルゼンチンに勝っただけだ。目標はまだまだ先にある。初心を忘れなければ成長が止まることはないだろう。
日本人の心をつかんだデビュー戦 (1/2)
日本代表1-0アルゼンチン代表(スポーツナビ)
さて、代表監督、とりわけ海外から招へいされた指揮官の場合、「自分はこのような方針でチームを運営していく」というメッセージが、初戦に色濃く反映される傾向があるように思う。8年前のジーコ監督の初戦では、当時最も輝きを見せていた4人の欧州組(中田英寿、中村俊輔、小野伸二、稲本潤一)を中盤に並べることで、今後4年間がバラ色であるかのような多幸感を演出してみせた。4年前のオシム監督については、ピッチ上での戦術以前に、13名しかメンバーを招集しないことを発表して周囲を慌てさせた(直後に6名を追加招集)。これについては、日本サッカー界の過密日程について「もう少し協会も考えてください」というメッセージが多分に含まれていたようである。ともあれ、ジーコにしてもオシムにしても、そのやり方と方向性こそ大きく異なるものの、何らかのインパクトあるメッセージを日本(人)に伝えようとする意図は明白であった。
それに比べると12年前のトルシエ監督の場合は、後任2人に比べてずっと静かな船出だったように記憶している。選考メンバーも、ワールドカップ(W杯)・フランス大会の顔ぶれをほとんど継承していたし、基本コンセプトである「フラットスリー」や「オートマティズム」にしても、あるいはその激高しやすい特異なキャラクターにしても、当時はまだそれほど大きな話題になることはなかった。それは、就任間もないトルシエの指揮したAマッチが、年内はエジプト戦1試合だったことに加え、多くの日本人が「白い魔術師」の異名を持つフランス人について、実はほとんど予備知識(あるいは偏見)を持っていなかったことも影響していたと思う。後にトルシエが、あれほど世を騒がせることを予期した日本人が、果たして当時どれくらいいただろうか。
こうして考えると、ザッケローニの日本での初陣は、ジーコやオシムよりも、むしろトルシエに近いと言えそうだ。今回の招集メンバーは「ベテランの選手と若い選手をバランスよく」配合した構成になっているが、その多くはW杯で活躍したり、過去に代表歴がある選手で占められている。戦術に関しても、特に明快なコンセプトやキーワードを提示するわけでもない。加えて監督自身は、実に質実剛健で内に秘めた情熱をあまり表に出さないキャラクターのようだ。となると、日本の新しい指揮官のメッセージを読み取る材料は、90分間のゲームの中だけ、ということになる。では、どこに着目すべきか。私は「ディフェンス」に、新監督の主張を見いだせるのではないか、と考える。
試合前日の会見の最後に、こんな質問が記者から飛んだ
「明日の試合は(これまで守備の要だった)中澤と闘莉王がいない。ディフェンスに関して不安はないか」
これに対するザッケローニの答えは明快だった。
「(守備をするのは)センターバック2人だけでなく、チーム全体で守るという意識でやっているので、特に不安はない」
言うまでもなく中澤佑二と田中マルクス闘莉王は、これまでずっと日本の守備の要であり、不可欠な存在であった。しかし、前者は先月のパラグアイ戦以降に負傷して長期離脱を余儀なくされ、後者も前日練習では別メニューとなっていた。前任の岡田武史監督時代、明確なテストを除けば、中澤と闘莉王が両者とも使えない状況は、すなわち「日本ディフェンス陣の危機」と同義であった。ところが新監督は「チーム全体で守るという意識でやっているので、特に不安はない」と語っている。換言するなら「新しい日本代表は、これまでとは違った守備のスタイルを目指す」ということなのだろう。
試合に先立つ合宿では、まず監督から守備に関する考え方が伝えられ、それがある程度チーム内に浸透してから攻撃の練習がスタートしたとされる。別に監督がイタリア人でなくとも、新たにチームを作るにあたり「守備から入る」のは定石であろう。もちろん指揮官自身が言うように「時間が限られていたので、この何日間で語ったことすべてができるとは思わない」。それでも、この試合からその方向性をうかがい知ることは十分に可能だろう。加えて相手は、世界屈指の攻撃力を誇るアルゼンチン。従ってこの試合は、欧州組がひしめく攻撃陣よりも、むしろ「日本がアルゼンチンに対して、いかなる守備を見せるのか」について注目すべきではないか――そう思い至った次第である。
ザッケローニのメッセージはサッカーは日本人の多くが考えている守備と攻撃は別物というものではないということではないだろうか。攻撃と守備がめまぐるしく入れ替わり、トランジションの瞬間がチャンスにもピンチにもなるサッカーで、世界と対等に戦うためにはチームとして機能しなければならないということではないか。守備を見せるというよりも、いかなるサッカーを見せるのかというところに日本代表の課題があった。岡田さんがやったようなカミカゼのようなプレッシングではなく(本戦では現実路線に近づいたが)、効率的なプレッシングで相手のミスを引き出し、ショートカウンターを目指すことでゴールを奪うといういかにもイタリアらしいリアリティでアルゼンチンを破ってみせた。これ以上のメッセージはなかったのではないか。
記念すべきザッケローニ体制の初戦に選ばれた11名は以下の通り。GK川島永嗣。DFは右から内田篤人、今野泰幸、栗原勇蔵、長友佑都。MFは守備的な位置に遠藤保仁と長谷部誠、右に岡崎慎司、左に香川真司、トップ下に本田圭佑。そしてワントップに森本貴幸。W杯メンバーは9名ながら、大会中のレギュラー組は5名のみ。そして海外組は7名を数える。そして何より、平均年齢は24・9歳とぐっと若返った。まさに、新たな船出にふさわしい陣容。対するアルゼンチンは、うれしいことに本気のメンバーをそろえてきた。テベスがいて、ディエゴ・ミリートがいて、マスチェラーノがいて、あのメッシまでもがいる。しかも、イグアインやディ・マリアといったビッグネームがベンチに控えているのだ。序盤、日本が必要以上に気負ってしまい、自陣でつまらないミスが続いたのも、栓なきことであったのかもしれない。
ところが、先制したのは何と日本であった。前半19分、相手クリアボールを奪った岡崎が右から折り返し、これを本田圭が合わせようとする。ここは相手DFにブロックされるも、こぼれたところをすぐさま長谷部が右足で強烈なミドルを放ち、相手GKがはじく。そこに岡崎が飛び込み、右足ワンタッチでネットを揺らす。「常にあれを狙っていた」という、いかにも岡崎らしいゴールは、単なる先制点ではなかった。過去、何度となく力の差を見せつけられてきたアルゼンチンに対して、日本がAマッチで先制したのはこれが初めてのこと。ここから、この重い1点をめぐるスリリングな攻防が白熱化していく。
アルゼンチンは、明らかに本調子からは程遠いものの、それでもメッシが切れ味鋭いドリブルで攻め込んで何度もチャンスを演出。この動きに連動して、テベスが、D・ミリートが、そしてダレッサンドロが次々とペナルティーエリア内に飛び込んでくる。さすがにメッシの縦へのスピードには、日本守備陣の誰もが対応できなかった。それでも、長友は持ち前のフィジカルの強さで相手のバランスを崩すことに徹し、飛び込んでくる選手に対しては遠藤と長谷部が必死で追いかけながらプレッシャーを掛け続けた。さらに、相手のサイドバックのオーバーラップに対しては、FW登録の香川が、岡崎が、そして本田圭が自陣深くまで下がってディフェンスに参加する。特にDFとMFのコンパクトな距離は絶妙で、これにFWの献身的な追い回しが加わる。指揮官の言葉通り「チーム全体で守るという意識」は、見事に意思統一されていた。
その後、けが人続出でどんどんメンバーを代えてくるアルゼンチンに対し、日本ベンチは後半になってもしばらく動かなかった。後半15分を過ぎてから、攻撃面では前田遼一と関口訓充を投入(関口はこれが初キャップ)。その一方で、疲労のたまった選手や数的に足りないポジションを補強すべく、ポイントを押さえたカードを次々と切っていく。いかにもバランスを重視する、ザッケローニらしいさい配だ。ロスタイムには、さすがに日本の選手も消耗して相手にスペースを与えてしまっていたが、それでも集中力は途切れることなく、無失点のままタイムアップ。ホームでの親善試合とはいえ、日本が強豪アルゼンチンに歴史的勝利を挙げて、ザッケローニ体制の船出に大輪の花を添えた。
このフレンドリーマッチの結果を喜んだのはドルトムントとチェゼーナではないだろうか。香川のアタックはアルゼンチンを相手に通用したし、長友も十分についていった。どちらも財政は苦しい。チームとして機能できることとともに市場価格が跳ね上がっていくことは計算以上だったのではないか。怪我をしなかったのももちろんだが。
ザッケローニのコンパクトな守備は宇都宮徹壱さんがいう全員が戻っての守備ではないのだが、まだ岡田さんの走りまわっての守備からの脱却が抜けていないということだろう。ザッケローニはリトリートしながらも、ディアゴナーレとカバーリングで時間を稼ぎ、カウンターの構えを残しながらも守備を固めていく方法を目指していたのではないか。世界のトップとはまだ差があるがテクニカルな部分では差がなくなってきたし、あとは経験だけだ。効率的な守備を覚えれば体力の消耗も少なくて済む。ということまで指導してもらえれば日本はもっとゴールに近い位置でプレーできるようになるのではないか。
「結果には満足している。それより選手たちが、この合宿で自分が言ってきたことをどれだけピッチで表現してくれるか見ていたが、特にそこに満足している」
試合後の会見場に現れたザッケローニは、喜びを爆発させるわけでも、ましてやおごり高ぶるわけでもない。パンフレットの表紙のような静かな微笑みを、時折浮かべるだけであった。それでいて試合の分析は的確で分かりやすく、選手やサポーターへの感謝の言葉を挟み込むことも忘れない。就任当時、すでに還暦を過ぎていたオシムを除けば、歴代の日本代表監督の中で最も「大人の態度」を感じさせる指揮官である。
このアルゼンチン戦の勝因を考えたとき、確かに相手の予想外のコンディション不良に助けられた部分も少なからずあっただろう。とはいえ、どんなに調子が悪くても最後に帳尻を合わせてくるのがアルゼンチンのしたたかさであり、そこに両者の力の差は端的に表れていた。それでも日本は、過去2度のW杯優勝を誇る相手に臆することなく、個の力で足りない部分はチームの力でカバーしながら互角以上の戦いを見せたのである。日本に力を与えたのは、ひとつに先のW杯で得た自信があったのは間違いない。だがもうひとつ、ザッケローニの目指すサッカーを短期間で学習し、それをピッチ上で実践できた、チームの潜在能力の高さについても、正当な評価が与えられるべきだろう。「この4、5日くらい結構詰めてやったけど、少しはできたかなという手応えもある」とは長谷部の言葉だが、指揮官自身も正直ここまでやってくれるとは思っていなかったのかもしれない。
もちろん、デビュー戦でアルゼンチンに勝利したこと自体、素晴らしい。それでもザッケローニ自身は「われわれの目標はアルゼンチンに勝つことではなく、成長していくことである」と、実に冷静にチームの行く末を見つめている。頼もしい限りではないか。思えば就任当初、この人には「旬を過ぎた監督」とか「自国を離れたことのない指導者が日本サッカーに適応できるのか」とか、とかくネガティブな指摘が付きまとった。ところがフタを開けてみれば、これほど短期間で日本の選手たちの特性をつかみ、チームコンセプトを徹底させた手腕は「お見事」の一言に尽きる。まだ1試合を終えただけだが、それでも原博実技術委員長は、本当に素晴らしい指導者を見つけてきてくれたのかもしれない。
初めて海外で指揮を執るザッケローニと、初めてイタリア人監督を迎える日本サッカー界。両者の共闘は、今後いつまで続くのだろうか。私は、意外と長く続きそうな予感を覚えた。というのも、この人はわれわれが想像している以上に、どうやら日本をリスペクトしてくれているからだ。それは、次の言葉からも明らかである。
「この1カ月、時間の許す限りJリーグを見てきて情報を集めて、いつも試合から戻るときには抱え切れないほどの情報を持って帰ることができた。それを今後も代表に生かしていきたい。Jリーグの監督さんたちは、本当に素晴らしい仕事をしてくれている」
この言葉に感銘を受けないJリーグの関係者、そしてサポーターが果たして存在するだろうか。このアルゼンチン戦で、確実に日本のサッカーファンの心をつかむことに成功したザッケローニ。指揮官が静かに微笑む中、日本代表の新たな旅路がようやくスタートした。
ザッケローニの復活というわけではない。オシムが倒れて中断したモダンサッカーへの復習がまだ始まったばかりだ。ユベントスを率いてもカンピオナートで順位を落としたザックはヨーロッパではトップクラスではない。だが、日本代表はザックの知識でも貴重な情報なのだ。貪欲に吸収して貪欲に試合で活かす。選手たちはピッチでプレーするのが楽しくて仕方がなかったはずだ。チームというコンセプトでサッカーを始めた日本代表は成長への第一歩をあゆみ始めた。ヴェンゲルが日本代表について強化は2年で十分だと言ったことを思い出す。彼も日本人の吸収の早さを見抜いていたのだろう。ザッケローニが踏んばって教えることで、もう一段階上にステップして、違う景色を見られるなら素晴らしいことだ。
Zaccheroni, che debutto!
L'Argentina inguaia l'Inter(La Gazzetta dello Sport)
SAITAMA (Giappone), 8 ottobre 2010 - La prima volta non si scorda mai. Quella di Alberto Zaccheroni da c.t. del Giappone entra di diritto nella storia, visto che la sua squadra del Sol Levante batte per la prima volta l'Argentina. A Saitama l'1-0 finale porta la firma di Shinji Okazaki, autore del gol vittoria al 19' del primo tempo.Il Giappone di Zaccheroni è ordinato e ben messo in campo, supportato dal talento offensivo di Honda e Kagawa e dalla tenuta difensiva, reparto su cui l'ex tecnico di Milan, Inter e Juve ha insistito molto nei suoi primi giorni da c.t. L'Argentina incassa la prima sconfitta dell'era Batista (che vede allontanarsi la possibilità di diventare l'erede di Maradona, e lascia strascichi importanti anche sul campionato italiano, visto che nel primo tempo sono usciti per infortunio gli interisti Milito e Cambiasso, denunciando, come si legge in una nota diffusa dall'Inter "problemi muscolari".
festa giappone — Nel 4-4-2 di Zaccheroni c'è spazio per due "italiani": Yuto Nagatomo, terzino sinistro del Cesena, e Takayuki Morimoto, centravanti del Catania. Batista, a caccia della terza vittoria in tre gari, schiera l'Argentina a trazione anteriore: Milito centravanti, D'Alessandro, Messi e Tevez a supporto. Il romanista Burdisso è il terzino destro titolare, l'interista Cambiasso uno dei due mastini di centrocampo (l'altro è Mascherano). In panchina ci sono anche Andujar (Catania), Bolatti (Fiorentina), Pastore (Palermo), Lavezzi e Sosa (Napoli). E' sfida vera nei primi minuti, con Messi che chiude una penetrazione con un pallonetto da distanza ravvicinata che finisce alto e Okazaki che al 9' manca l'aggancio in area piccola su un pallone di Honda dalla destra che bastava solo spingere in rete. Il gol dei padroni di casa però arriva al 18': Honda spara dalla distanza, Romero non trattiene e Okazaki mette dentro. La panchina del Giappone esulta, soprattutto l'interprete di Zaccheroni, l'uomo attraverso il quale il c.t. italiano riesce a dare ordini ai suoi giocatori. La reazione dell'Argentina è affidata alle giocate di Messi, in campo per dovere di sponsor e per regalare un contratto a tempo pieno al c.t. ad interim Batista: la Pulce al 27' telecomanda una punizione verso l'incrocio dei pali ma Kawashima si supera.
inter nei guai — Il tentativo di rimonta dell'Argentina deve fare i conti con due infortuni, che riguardano entrambi due giocatori dell'Inter. Al 32' si ferma Diego Milito, già partito per la sfida non al meglio: l'attaccante chiede il cambio, toccandosi l'adduttore della gamba destra, e Batista è costretto a sostituirlo con Gonzalo Higuain. Un minuto prima del riposo è Esteban Cambiasso a gettare la spugna, ancora a causa di un infortunio: al suo posto entra in campo Mario Bolatti, centrocampista (poco usato) della Fiorentina. "Lo staff medico dell'Inter ha già preso contatto con i calciatori, che hanno riferito di aver accusato entrambi problemi muscolari - si legge in una nota diffusa dall'Inter nel pomeriggio -: saranno valutati nei prossimi giorni".
speranze italiane — Gli ospiti iniziano la ripresa senza fretta di trovare la rete del pari. Ma Messi cala e le idee scarseggiano, così al quarto d'ora Batista si affida al genio del palermitano Javier Pastore. Il Giappone però ha imparato bene la lezione di Zaccheroni, e argina le folate argentine con una difesa molto attenta, ben comandata dai centrali Kurihara e Inoha. Tevez spreca la chance più grossa per il pari e allora Batista alla mezz'ora manda dentro anche Lavezzi (al posto di Burdisso). L'Argentina si riversa in avanti ma non riesce a far male, il Giappone invece nel finale (dopo l'infortunio al viola Bolatti) sfiora la rete del raddoppio in contropiede con Maeda. E quando l'arbitro fischia la fine il tifo di Saitama può esplodere. "E' stato un esordio complicato in una gara importante - ha detto Zaccheroni a fine partita -. Ma prima della gara avevo detto ai giocatori di crederci, perché hanno tutti i mezzi per competere anche contro una squadra come questa". In Giappone il suo debutto se lo ricorderanno a lungo.
La Gazzetta dello Sportは長谷部のシュートを本田圭佑のシュートとしたり、CBを栗原と伊野波(実際は今野)としたり、ミスはあるのもの、日本代表はザッケローニの知識を吸収して存分に暴れまくり、埼玉をお祭り騒ぎにしたと最大限の褒め言葉で報じている。一報でイタリアのクラブに所属する森本、長友を持ちあげ、さらにはインテルのディエゴ・ミリートとカンビアッソが怪我したことに対して数日中には結果がわかるだろうとイタリア向けのニュースになっている。La Gazzetta dello Sportもザックは過去の監督としていたのだが、アルゼンチン戦での勝利でもちあげるあたりはやはりラテン系の血というところだろうか。ザックの指揮によって、日本代表はイタリアを驚かしたのだけは間違いないようだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿