世界が指摘する岡田ジャパンの決定的戦術ミス〜イタリア人監督5人が日本代表の7試合を徹底分析〜 (COSMO BOOKS) | |
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世界が指摘する岡田ジャパンの決定的戦術ミス〜イタリア人監督5人が日本代表の7試合を徹底分析〜 (COSMO BOOKS)が面白い。日本代表の弱点をここまで的確に指摘した本は今までなかった。このままの内容でも日本サッカー協会のマッチレポートに使えるのではないかと思えるほどの内容だ。
この本のよさを認識してもらうためにはどうしてもインパクトのあるところを引用する必要がある。数行ならともかく、大きく引用することは著作権に違反するのだが、少しでも多くの人たちに読んでもらうきっかけとして引用したい。もちろん、著者の宮崎隆司さん、コスミック出版には最大の敬意を払ってのことだ。問題があるのなら即座に削除するのは当然のことである。
なお、分析に関わったイタリア人監督たちはワールドカップ本戦に出場するフル代表のチームを分析することに対して深い責任と敬意をもって当たっていることは本書に記されている通りである。
2010 FIFA World Cup South Africa Asian Qualification Round 4 Matchday 3 Japan 1-1 Uzbekistan @ Saitama Stadium 2002
Japan:Tamada 40
Uzbekistan:Shatskikh 27
ホームで行われたウズベキスタン戦。この分析で日本代表はまったく守備の基本ができていないと指摘されている。守備の基本とはディアゴナーレ(斜め後方にポジションをとるというゾーンディフェンスの基本)とスカラトゥーラ(ポジションを移動させること。ボールの位置によってポジションを移動したり、スペースを埋めたりする)の両方ができていないということがはっきりと言われているのだ。なお、図は省略させていただく。その場面はぜひとも本書を読んでもらいたい。
ウズベキスタン戦の失点の場面はこのように指摘されている。分析したのはレンツォ・ウリビエリ氏(イタリアサッカー協会、監督協会会長)。中田英寿が所属していた当時のパルマの監督でもある。
日本の失点場面には合計7つのミスが立て続けに起こっていた……
次に、いよいよウリビエリが最も長い時間をかけて細かく分析した場面に話を移したい。言うまでもなく、それは日本が失点を喫する場面である。驚くべきことに、この一連のプレーには合計7つものミスが連続して起こっているのだ。そういう意味では、この失点は偶然ではなく、必然だったと言える。また逆に言えば、この場面に見えたミスの数々を修正することが、今、日本がまず取り組むべきポイントだということになる。
事の始まりは、前半26分。闘莉王が自陣やや左サイドから中央にいた中村(俊)にパスを出し、受けた中村(俊)が右サイドに流れる玉田へ展開しようとしたパスが、相手の左SBデニソフにインターセプトされてからの場面だ。ここからウズベキスタンの先制ゴールが決まるまで、わずか16秒ほどの間に計7つのミスが連続することになる。
しかしながら、その始まりの部分は決して難しい守備が必要だったわけではないと、ウリビエリは指摘している。
「ここでは中村(俊)のパスをデニソフがカットするわけだが、それはあくまでも敵陣ペナルティーエリア付近のことで、ハーフラインまではおよそ30mもあるゾーンの話だ。しかもデニソフがカットしたボールを受けるハサノフを含めると、ボールより前にいたウズベキスタンの選手はFWの2人だけだ。要するに、まだ何ら慌てる必要のないゾーンにおける守備ということになる。当然、段階的守備を知っていれば冷静に対処出来る局面だが、しかしここから日本はいくつものミスを連続させてしまっている。日本が犯している典型的なミスの大半が凝縮された16秒間と言えるのではないだろうか」
そう言って、ウリビエリはそのミスの1つ1つを具体的に示していった。
長谷部と遠藤の両守備的MFが犯した自殺行為と呼ぶべきミス
まずは、ウズベキスタンにボールを奪われた直後の場面。図19がそれだ。
この場面は、長谷部がボール保持者のハサノフに突っ掛けていくところから始まる。この長谷部の動きを最初に見た瞬間、ウリビエリは「ここで失点してしまう」と天を仰いだほどだ。実際、ここから日本の守備崩壊が始まっている。
「この場面で、ボールを持っているハサノフは、自分に対して簡単に突っ掛けてきた長谷部を前にして、右にいたジェパロフにパスを出すことで簡単にかわしている。フリーで前を向いてボールをキープする相手に対しては簡単にボールを奪いに行ってはいけないという鉄則を、長谷部が破ってしまった場面だ。
ところが、今度は同じようにフリーで前を向くボール保持者のジェパロフに対して、もう1人の守備的MFの遠藤までもが突っ掛けに行ってしまう。これでミスは拡大した。つまり、相手陣内の深いゾーンへ、日本の守備的MFの2人が揃って突っ込んで行ったというわけだ。これは、2対2における守備のセオリーを熟知していない証だと言える」
図20で示す通り、長谷部と遠藤が立て続けにボールを奪いに行った後、さらに日本の傷口は広がっている。ここで、前から遠藤が接近し、さらに背後から香川が寄せたことで、ボールを持っていたジェパロフは前方のカパーゼにダイレクトのショートパスを送る。
「カパーゼがボールを持って前を向いた局面に注目して欲しい。この場面を日本から見ると、センターサークル付近に見事なまでの穴が出来てしまっている。説明するまでもないが、これは2人の守備的MFが飛び出したことで生まれたスペースだ。
しかし、ミスはまだ続いている。次の瞬間、カパーゼに向かって、あろうことか左SBの阿部が飛び出し、足を出して突っ掛けている。これも、自殺行為以外の何者でもない」
派手なクリアミスより、その後の判断の遅れを問題視すべき
ウリビエリが指摘する通り、何でもなかったはずの場面は、瞬く間にその様相を変化させていった。阿部がカパーゼに対して足を出した段階の状況は、図21に示す通りだが、その後も状況は刻々と変化する。
カパーゼは、阿部が迫ってきたところですかさず右サイドでフリーになっていたマグデーエフにパスを送るのだが、そのパスは阿部の足に当たり、ボールは後方で構えていた闘莉王に向かって宙に浮いた。
「この宙に浮いたボールを、フリーである闘莉王が無理な体勢でクリアするわけだが、まずこのクリアが軽率だ。しかしそれはともかくとして、ここで指摘しておきたいのは、阿部が空けてしまったスペースにはマグデーエフがフリーで待っていて、守備的MF2人が空けた穴にはカパーゼが完全にフリーの状態でボールを持っていたという事実だ。本来であれば、日本の守備網が張り巡らされているべきゾーンを誰にも邪魔されることなく、である。ここでもし守備的MFの1枚でも残っていれば、カパーゼの行く手は難なく阻止出来ていたはずだ。
加えて、闘莉王にあの無謀なオーバーヘッドのクリアをさせたのが阿部の軽率な突っ込みだったとしても、自らがクリアミスしたボールが敵に渡ることを確認した直後に、闘莉王は猛然と自陣深くに戻るべきだった。しかし彼は、再び宙に浮いたボールを一瞬とはいえ見入ってしまっている。時間にするとわずか1、2秒のことかもしれないが、この一瞬の空白は、最終的にゴールをアシストしたカパーゼに対して2歩分の遅れをとる原因になっている。さらにこの遅れが、ペナルティーエリア内に戻った中澤の判断を狂わせていることも見逃せない。事実、このとき中澤は、遅れをとった闘莉王に代わってカパーゼのマークに付こうとする動きを、一瞬だけ見せている。つまり、この中澤の判断の迷いも、最終的にゴールを決めたシャツキフとの距離を詰めきれなかった原因になっているのだ」
カパーゼのパスが阿部の足に当たり、そのボールが闘莉王のクリアミスを経て、最終的にゴールにつながるまでの一連の動きが、図22と図23である。この展開の中には、確かにウリビエリが言う一瞬の判断ミスが重なっていた。
岡田ジャパンは時間を稼ぐという守備の基本が出来ていない
しかしながら、ウリビエリの指摘はここで終わらない。
「もう1人、見過ごすことが出来ない動きをしている選手がいる。本来ならば、ゴール前に走り込んだ得点者のシャツキフとの間合いを詰めるべきもう1人のDF、右SBの内田である。
この場面での内田の動きは、さらに厳しく指摘しなければならない。これは、まさにディアゴナーレのセオリーを知らない証だ。長谷部と遠藤が連続してボールを奪いに行ったのを見ていながら、しかも阿部までが前に出てしまったのを見ていながら、なぜサイドバックの内田はシャツキフに向かって絞ろうとしなかったのか。確かに中澤が引き出されたのは闘莉王の遅れに原因があったかもしれないが、あそこまでシャツキフをフリーにしてしまう内田の動きは、見過ごせるレベルのものではない。
もちろんこれは守備的MFの2人にも言えることだ。自らの持ち場に穴が出来ることを顧みず前に出て行った長谷部と遠藤は、その穴を敵に突かれている以上、猛然と戻るべきだ。ところが、2人ともそんな素振りさえ見せていない。MFは、たとえば敵が最終ラインから蹴ったボールが自らの頭上を越えたとき、味方DFラインとの距離を詰めるべく戻る。彼らはこの常識を知らないのだろうか……」
ここで、この失点の場面における日本のミスを以下に整理してみた。わずか16秒間に立て続けに起こった、合計7つのミスである。
1 ハサノフに突っ掛けた長谷部
2 ジェパロフに突っ掛けた遠藤
3 カパーゼに突っ掛けた阿部
4 無理なオーバーヘッドのクリアを試みた闘莉王
5 直ぐに次のスペースを埋めに走らなかった闘莉王
6 自らが空けた穴に戻る動きを見せなかった長谷部と遠藤
7 逆サイドの局面を見ていながら中に絞らなかった内田
これらのミスを列挙した後、ウリビエリは続けた。
「そして、敢えてもう1つ付け加えるとすれば、中村(俊)、香川、玉田、大久保といった日本の攻撃陣の戻りの遅さも挙げられる。
そもそも、最初にパスをカットされた中村(俊)は、その瞬間、次のプレーに移るのではなく、ボールを奪われたことに対して自ら肩を落として足を止めてしまっている。本来であれば、ここはその直後にボール保持者となったハサノフよりも自陣寄りにポジションを戻す動きをすべきだ。相手にボールを奪われたら、まず各自が然るべきポジションを取り、その上で息を整えれば良い。
もっとも、彼ら攻撃陣が戻る時間、そしてDF陣が守りの態勢を整える時間を与えるためにも、長谷部と遠藤の両守備的MFは突っ込むのではなく、相手の出方を見ながらゆっくりとポジションを下げなければならないのだが。
いずれにしても、このチームが時間を稼ぐという守備の基本が出来ていないために喫した失点だと言えるだろう」
引用はここまでとしたい。ほんの一部だが、わすか1点に対して詳細に分析されていることがわかるだろう。この後、ワールドカップ予選やフレンドリーマッチについて日本の問題点が次々と明らかにされていく。
中村俊輔はなぜ内田や長友がいるのに最終ライン近くで守備をしているのはなぜかという疑問もあった。
アジアで通用するのに世界で通用しないのはなぜか。本書を読めば、その疑問の欠片でも解けることは間違いない。それほど重要な警鐘である。
2 件のコメント:
この本は今までにない程、興味深い内容ですね。
今度探して立ち読みしてくる事にします。
それにしても、一つの失点シーンに対しての細やかな分析には驚かされます。
そして、ただ堅いと言われていたイタリアの守備文化の意味がよく感じ取れます。
それにしても、これだけミスが続けば失点の理由がよくわかりますね。ただ、パスミスをしたからだけでもないという。
ただ、ビルドアップの時点で横パスやバックパスを奪われ失点する機会はたびたび目にするシーンだけにそうしたリスクマネージメントの部分においても日本は課題が多いですよね。
その上で、奪われてからの個々の判断の悪さがここまで全体に見られる事まで考えると、もう監督云々でも選手云々でも無い気もしてきます。
日本サッカーそのものが足りなかったという様な・・・。
こういった分析を、ブラジル代表やスペイン代表など攻撃に魅力があるチームでもおこなってもらいたいものです。そうすると、何処の国が当たり前に出来て、何処が出来ていないのかがわかると思いますし。
>S-Kyoさん
立ち読みといわず、ぜひとも買ってください(笑)
何度でも読み返したくなる本ですから。
この失点シーンでもウズベキスタン戦の一部分なのですよね。
10時間以上もかけて分析しているので。
日本もそれくらいしているのか疑問です。
たしかに、日本サッカー全体が足りなかったというのはあるかもしれませんね。
ヨーロッパの3大リーグでレギュラーを張る選手が10人くらい出てこないと改善されないかもしれないですね。
この本ではキリンカップで対戦したベルギーと、ヨーロッパ遠征で対戦したオランダについても触れています。
やっぱり買って読んでくださいね。
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